Point
■6600万年前に恐竜を絶滅させた隕石衝突は、海洋生物にも同じく死の道を歩ませた
■海中の酸性濃度が急上昇したことで、海の生態系が崩壊したことが原因だったと判明
陸上の覇者であった恐竜たちが絶滅したのは、今からおよそ6600万年前。現在のメキシコ・ユカタン半島への隕石衝突が原因でした。
恐竜を含む地上生物の大半が絶滅し、一説では75%が地球から消えたと言われます。一方で、海の生物たちも同じ道を辿ったのですが、隕石の衝突が海に対していかに災いしたかを示す証拠は、これまで明らかにされていませんでした。
しかし今回、GFZ研究所(独)およびイェール大学(米)の共同研究により、隕石衝突後に海中の酸性濃度が急激に上昇していたことが判明したのです。
酸性濃度が増したことで、ある海洋生物に甚大な被害をもたらし、それが海の生態系を崩壊させたと考えられます。
研究主任のMichael Henehan氏は「この結果は、恐竜を絶滅させた隕石が海洋生物にも直接的に影響していたことを示す初の証拠となる」と話しました。
研究の詳細は、10月21日付けで「PNAS」に掲載されています。
https://www.pnas.org/content/early/2019/10/15/1905989116
崩壊した海の世界
研究チームは、オランダのGeulhemmerberg洞窟内で多数見つかった「有孔虫」」の化石を調べました。
有孔虫とは、海中の炭酸カルシウムを利用して自らの殻や骨格を作る「海洋石灰化生物(marine calcifiers)」の一種です。サンゴやウニ、貝類もその仲間に含まれます。
そして、有孔虫の殻に含まれるホウ素同位体を調べることで、海中の水素イオン濃度や酸性濃度が分かるのです。
発見された有孔虫の生息年代は、隕石衝突時期に相当することもあって、当時の海の環境を知る大きな手がかりとなります。同時に、研究チームは、隕石衝突前に生息した有孔虫の化石も調べ、2つの時代を比べてみました。
その結果、隕石衝突後の海は、水素イオン濃度が著しく低下し、反対に酸性濃度が急激に上昇していることが判明しました。
陸上に生きる私たちにとって、この変化はピンと来ませんが、海の生物にとっては一大事です。
というのも、海中の酸が多くなると、有孔虫は炭酸カルシウムを石灰化できず、殻が作れなくなります。そのせいで、有孔虫の大半が死滅したはずです。
すると今度は、有孔虫が消えたことで食物がなくなった生物が死んでいき、次にその生物を食べていた生物も死んでいきます。
こうして生態系が崩壊した海では、地球上の50%の海洋生物がいなくなったと予想されています。
酸性濃度が高まった理由については、これまでの研究が示唆しています。
例えば、硫黄を豊富に含んだ岩石への隕石衝突により、硫酸が海に大量流出したこと、あるいは空に舞い上がったチリの雲により酸性雨が降り始めたことなどが考えられます。
今回の発見は、それらの仮説を証明する貴重なものとなったようです。