Point
■大気重力波とは、大気の密度差により生じる空気塊の上下振動から発生する波
■この波は非常に広範囲へ伝わることで、集中豪雨などの極端な気象現象にも影響している
■日本の気象衛星「ひまわり8号」は、雲の生成消失によって可視化された非常に珍しい重力波の姿を捉えた
重力波と言われると、宇宙論などに登場するブラックホールのような重い天体が発生させる時空曲率の乱れを想像してしまいますが、実は大気圏内で発生する重力波現象も存在しています。
こちらは大気重力波と呼ばれていて、大気が山の斜面をなどを昇ることで本来の位置より高い場所へ来てしまったときに起きる浮力振動という現象が原因となって発生します。
大気重力波は、昔はただのノイズのような扱いでしたが、近年は観測技術の向上によりその重要性が認識されてきて、集中豪雨などの極端な気象にも影響を与えていることがわかっています。
大気の振動であるため、通常この現象を目で見ることはできませんが、日本の気象衛星「ひまわり8号」はこの大気重力波が雲を生成、消失させることで広範囲へ伝わっていく様子を映像で捉えることに成功しました。
これは非常に珍しい映像で、気象学者のAndrew Miskelly氏が自身のTwitter上で紹介しています。
大気の生み出す重力波とは?
大気重力波は、山の斜面を風が乗り越えるときや、寒暖の差がある気団が衝突した場合、空気塊が本来の高度より高い場所へ持ち上げられてしまった場合に発生します。
このとき、空気塊は若干膨張はしますが、周囲の大気より密度が高く重い状態となります。そのため、この空気塊は落下して元の位置へ戻ろうとするのですが、持ち上げられたことでポテンシャルエネルギーを獲得しているため、その勢いによって本来の高度より低い位置まで落ちていってしまいます。
すると、今度は空気塊に浮力が働き大きく上に持ち上げられます。これは水に沈めた風船のように、やはり浮力の勢いがつくため定常位置より高い場所へと戻ってしまいます。
これらの作用を繰り返すことで空気塊は上下に浮き沈みを繰り返すことになるのです。これを浮力振動といいます。
こうして大気中に海で起きているのと同じ様な波が発生するのです。こうした浮力を生み出す原因は重力にあるため、この波は重力波という呼ばれ方をしています。そのため、同じ名前ではありますが宇宙で天体が起こす重力波とは、まったく原理が異なる現象です。
今回紹介したオーストラリア北西の大気重力波は、寒暖差のある気団の衝突が原因となって発生したものです。
オーストラリア気象庁の気象学者Adam Morgan氏は、「西オーストラリア州の北西で大規模な雷雨があり、それが地表近くの暖かい空気に冷たい空気を落下させて大気を乱したことが原因だ」と語っています。これが大気中の密度差を作り出し、大気重力波を生んだのです。
通常大気重力波は目で見ることができません。しかし、大気の上下動は大気中の水蒸気を移動させることで、雲を生成したり、消失させたりします。その様子が、日本の静止気象衛星「ひまわり8号」に捉えられたのです。
ここでは、雲が出たり消えたりすることで、重力波が非常に広範囲に広がっていく様子を見ることができます。映像はオーストラリアの北西部から発生した波紋が、インド洋上空まで及んでいるのがわかります。
映像には海上に広がる茶色いシミのようなものも見えますが、これは大気重力波の影響により、西オーストラリア州の砂漠ピルパラ地域の砂埃が、インド洋に向かって広がっているものです。
大気重力波は些細な大気の乱れから生まれた振動ですが、地球上の広い地域まで伝わって影響を及ぼす現象です。飛行機なども、この影響を受けて上下にゆすられたりするようです。
さすがに地球規模の現象はスケールが違いますね。
なお、ひまわり8号が毎日捉えている地球大気の様子は、下のサイトで閲覧できます。もしかしたら珍しい大気現象が写っているかもしれません。
A longer animation highlighting the atmospheric gravity waves. Waves cause the air to rise and sink, cooling and warming its water vapour and making upper water vapour temperature an effective means of visualisation. In some cases, cloud forms on the crests. pic.twitter.com/af6kfO2U9Q
— Andrew Miskelly (@andrewmiskelly) October 22, 2019
https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/44205