- スーパーセンチナリアン(110歳以上)の人は、がん細胞や病原菌を退治する「キラーT細胞」を多く持っていることが判明
- さらに、T細胞の多くが同一の受容体を保持していたことから、クローン増殖している可能性が高いという
70歳くらいで介護を受けている人もいれば、100歳超えても一人で元気に暮らしている人がいるのはなぜでしょうか? その原因のひとつは、特殊な免疫システムにあるかもしれません。
一般的に、100歳を越えると「百長寿」、110歳を越える超長寿は「スーパーセンチナリアン」と呼ばれます。彼らは世界有数の長寿国である日本でも、わずか146人(2015年調査)しかいません。
通常、人の免疫力は老化に伴って弱まり、高齢であるほどガンや感染症のリスクが急増します。ところが、スーパーセンチナリアンには、ガンや感染症にかかりにくく、自立した健康的な生活を送っている人がとても多いのです。
つまり、110歳の壁を越える人には、身体にある秘密が隠されていることが予測されます。
そこで、理化学研究所と慶応大学の共同研究チームが、国内の健康なスーパーセンチナリアンの男女7人を調査したところ、「CD4陽性キラーT細胞」という特殊な免疫細胞を多く持つことが判明したのです。これは同様の検査をした50〜80歳の男女5人の10倍に相当しています。
スーパーセンチナリアンの免疫システムを解明することで、老化防止や寿命延長の方法が新たに見つかるかもしれません。
研究の詳細は、11月12日付けで「PNAS」に掲載されています。
https://www.pnas.org/content/early/2019/11/11/1907883116
「T細胞」ってなに?
今回の研究では、110歳以上の男女7人と50~80歳の男女5人から血液サンプルを採取し、血中に含まれる免疫細胞を1つの細胞レベルで解析しました。
その結果、110歳以上の人の血中には、ガン細胞や病原体を直接退治「キラーT細胞」が高い割合で発見されたんです。
キラーT細胞は、ターゲットとなる感染細胞に向かって放たれると、細胞膜に穴をあけて、細胞死を誘発する機能を持っています。
T細胞は、免疫システムの司令塔の役割を担う細胞で、体中いたるところに存在します。T細胞は主に、「CD4陽性ヘルパーT細胞」と「CD8陽性キラーT細胞」に分けられます。
前者は、病原体を認識すると他の細胞に抗体を作るよう指令を出す機能を持ち、後者は、病原体に感染した細胞を見つけ出して自ら直接殺します。そして、CD4陽性でありながら、同時に細胞を殺す力を持っているものを「CD4陽性キラーT細胞」と呼ぶのです。
CD4陽性キラーT細胞は、人の血中にはあまり存在しませんが、110歳以上の男女にはなぜか多く見られることで知られています。
さらに、彼らが持つCD4陽性キラーT細胞の受容体(外界から刺激をキャッチし、情報に変換する場所)を調べてみると、その多くが同じ受容体を持っていることが分かりました。
これは、T細胞が抗原の刺激を受けた際にクローン増殖した証拠です。
研究チームは「CD4陽性キラーT細胞が、免疫システムの老化防止に何らかの役割を果たしていることはうかがえるが、詳しい働きについてはまだ謎が多い」と言います。
しかし本研究から、CD4陽性キラーT細胞が、免疫システムを良好に保つ働きをしている可能性は十分に予測できます。研究チームは今後、CD4陽性キラーT細胞に刺激を与えてクローン増殖を促す実験を計画しているとのことです。
その結果次第では、世界中の人が簡単に100歳を超えられるような未来が訪れるかもしれませんね。