- シロナガスクジラの心拍を測定することに世界で初めて成功した
- 心拍は海面近くでは1分間に34回という速さだが、深海へ潜った際には僅か1分間2回という状態を記録した
- この限界に近い心臓の動作は、シロナガスクジラのサイズ限界を理解するために役立つ
海洋生物学者のチームが、世界で初めてシロナガスクジラの心拍を記録することに成功しました。
シロナガスクジラのような巨大生物の心拍測定は、心拍を測るためにちょうど良い位置を特定し、クジラの皮膚に馴染む接触タグを作り、そこに上手くセンサーを取り付けるなど、非常に難しい課題があります。
今回研究チームはそうした困難を乗り越えて、見事謎に包まれたシロナガスクジラの心拍を測ることに成功したのです。
シロナガスクジラは100メートル以上の深海へ潜って食事をします。調査の結果、この時の心拍が驚くほど低下していると明らかになりました。
海面近くでは1分間に34回あった心拍数が、深海では最低で1分間に2回まで低下したとのこと。これは研究者の予想を遥かに下回る心拍です。
この研究は、米国スタンフォード大学のJeremy Goldbogen氏を筆頭とした研究チームにより発表され、11月25日付けで米国科学アカデミー紀要『PANS』に掲載されています。
https://doi.org/10.1073/pnas.1914273116
世界最大の生物を活動させる巨大な心臓
シロナガスクジラは現在知られている中では地球上最大の動物で、体長は30メートルを超えることもあります。
そんな巨大な身体を支える心臓は、相応に巨大なものになります。シロナガスクジラの心臓は180キログラムもあり、人間の大人を超えるサイズです。
下の画像は、カナダのロイヤルオンタリオ博物館に展示されているシロナガスクジラの心臓標本です。周りに立つ人と比べれば、その巨大さがよくわかります。
肺呼吸を行う生物は、水中に潜った場合、酸素の消費を抑えるために心拍数が低下します。
クジラの場合は、水深300メートル以上の深海へ潜ることが可能で、海中の活動時間も遥かに長くなります。
こうした潜水能力を考えると、クジラの心拍は人間などよりもずっと極端に低下すると科学者は考えていましたが、これまでシロナガスクジラの心拍測定に成功した研究はありませんでした。
そこで今回研究者たちは、カリフォルニア州モントレー湾で発見されたオスのシロナガスクジラに、6メートル近い竿を使ってセンサーを取り付け心拍の測定を行いました。
センサーのサイズは弁当箱くらいの小さいもので、4つの吸盤によってクジラの背に張り付きます。吸盤の内2つが電極になっていて、それが心拍を測定します。

シロナガスクジラは深海で餌を食べます。餌を探し始めると、クジラは調査を行った8.5時間の間に何十回も潜水を繰り返し、最長で16.5分間潜り続け、潜った最低深度は184メートルに達していました。
そして、このとき海面で呼吸する時間は4分程度しか使わなかったそうです。
センサーはシロナガスクジラの潜った深度と心拍数を記録しています。この記録から、最低深度にいるときクジラの心臓が1分間に4〜8回しか鼓動しておらず、最低心拍数はわずか2回という状態だったことが明らかになりました。
研究者たちによると、この非常にゆっくりとした心拍の間、クジラの伸縮性に富んだ大動脈はゆっくりと収縮して、血液が非常に低速で体内を移動するようにしているのだといいます。
水面に戻ったとき、クジラの心拍数は一気に加速し、毎分25〜37回という勢いになります。次の深い潜水に備え、十分な酸素を血流に注入するためです。
これは、クジラの心臓の物理的限界に近い鼓動と考えられています。
この心臓の動きから、なぜシロナガスクジラが一定の大きさで頭打ちになるのか、また地球上にこれ以上のサイズの動物が存在しないかを説明できるかもしれません。
大きな生き物は、海中で生活する他なく、そこで十分な餌を得るためには長くて深い潜水を維持する必要があります。これには非常に多くの酸素を必要とします。
シロナガスクジラの心臓は現在地球上でもっとも過酷な働きをする心臓です。これが現在の生物学的サイズの限界を決めています。
なんだかゆったりと海を泳いで、気ままな人生を楽しんでいるように見えるシロナガスクジラですが、実際はその巨大な身体を維持するために、非常に過酷なアスリート生活を送っていたようです。