- 筑波大学が、パラオの海水から真核生物の特徴を兼ね備えた「原核生物」を新たに発見する
- 「ウアブ」と名付けられたこの生物は、真核生物しか持っていないはずの捕食能力を持っていた
地球上の生き物はすべて、「真核生物」か「原核生物」のどちらかに属します。
真核生物は、細胞内に核膜を持ち、細胞が柔軟で、構造も複雑です。ヒトや魚類、鳥類、植物などはすべて真核生物となります。一方の原核生物は、核膜を持たず、真核生物よりも小型で、構造がシンプルです。真正細菌や古細菌などが原核生物に含まれます。
2つのグループは、形も能力も特徴も大きく異なり、共通点はほぼありません。
ところが今回、筑波大学の研究により、真核生物しか持っていないはずの捕食能力を持つ大型の原核生物が発見されたのです。
この生物は、原核生物から真核生物への進化線を解明する上で、重要な存在となっています。
大食い生物「ウアブ」は一体何モノ?
研究チームが発見した原核生物は、パラオ共和国で採集した海水から見つかりました。名前は、パラオ神話に登場する大食い巨人Uabにちなんで、「ウアブ(正式学名:Candidatus Uab amorphum)」と名付けられています。
ウアブは、単細胞の真核生物(アメーバなど)と同等のサイズを持ち、同じように柔軟に移動します。
そして、ウアブの最も大きな特徴は、捕食能力である「ファゴサイトーシス(食作用)」を持っていることにあります。
ファゴサイトーシスとは、真核生物だけに見られる機能で、バクテリアなどを自らの細胞で捕まえる現象です。ヒトの体内では、白血球が病原体を退治する際の免疫システムとして働いています。
詳しく観察したところ、ウアブも細胞を使って、小さな細菌を捕食している様子が捉えられました。ウアブのファゴサイトーシスも、真核生物のそれと同様に、捕食した細菌を体内でしっかり分解しています。
この謎を解明するため、研究チームは、ウアブのゲノム解析を行いました。
その結果、ウアブの中には約6600個の遺伝子が存在していましたが、真核生物に因んだ遺伝子はほぼ見つかりませんでした。こうした事実は、ウアブが、真核生物とは無関係に、それらと同じような特徴を発達させたことを示しています。
研究チームは、ウアブについて「原核生物の常識を覆す全く新しい生物」と評しました。
原核生物から真核生物が派生したのは、10数億年も前のことと言われます。その後、真核生物は、原核生物とはまったく異なる特徴を発達させてきたのですが、ファゴサイトーシス獲得の経緯はいまだに分かりません。
今後ウアブの生態研究がすすめば、原核生物と真核生物の間の謎が解明されるかもしれませんね。