思った以上に複雑だったパルサー表面
中性子星は非常に強力な重力を持つ天体です。そのため周囲の時空は歪んでいて、高速回転するパルサーの裏から放たれた光が正面から観測される状況も生まれています。
このため星は実際より大きく見え、本来見えていない部分も見えている状態となり正しい解析ができませんでした。
しかしX線望遠鏡NICERは、従来の20倍の精度である100ナノ秒(ナノは10億分の1)以上の測定ができるため、パルサーから放たれたX線の正しい放射位置を予測できます。
これにより、科学者たちはパルサーの正確な大きさを、不確かさは10%以下という非常に高い信頼性で計算できるようになったのです。
こうして観測されたホットスポットの位置は、これまでの予想と大きくことなっていました。今までの観測から予想されるホットスポットは北半球と南半球の極点に存在するように考えられていました。
しかし、実際は全てのスポットが南半球に存在していたのです。しかも、そのスポットの数は、磁石の極数から予想される2つではなく、最大で3つ見つかったのです。
研究チームは二手に分かれて、観測されたX線信号を再現するシミュレーションをスーパーコンピューターによって行いました。これは分析に1カ月もかかりませんでしたが、デスクトップパソコンで行った場合、10年はかかる計算だったと言います。
アムステル大学のチームでは、この計算結果が1つの小さい円形と長い三日月型のホットスポットとして現れました。
メリーランド大学のチームは少し異なる結果を示していて、こちらは2つの楕円のホットスポットと、さらにもう1つ他より冷たいスポットが南極近くに発生するという可能性を発見しました。
理論上の予想では、ホットスポットの位置や形状は変化する可能性があることが示唆されていましたが、観測結果によるシミュレーションにより実際にその特徴が示されたのは今回が初です。
極が南半球に集中していて、最大3つも放射のホットスポットを持つというのは、これまで考えられていたパルサーのモデルとは大きく異る状況です。中性子星の核が一体どういう状態になっているのか、謎は深まるばかりです。
予想外に複雑な構造の中性子星パルサー。知れば知るほど謎の深まる天文学ですが、そこがやっぱり魅力なんでしょう。