- 「サマリウム酸化ニッケル」という物質は、温度上昇に伴う熱放射を最小限に抑えることができる
- この物質を応用すれば、熱センサーや赤外線カメラに映らなくなり、新たなステルス技術が誕生するかもしれない
物質は、絶対零度よりも高い温度であれば、基本的にすべて熱を放ちます。その様子は赤外線で視覚化され、温度が上がるほど、輝きも強くなります。
しかし今回、パデュー大学(米)により、この物理ルールを覆すある物質の特性が明らかにされました。
その物質は、温度上昇に伴う熱放射に抵抗するため、表面熱が赤外線で捉えにくくなります。
研究チームのShriram Ramanathan氏によると「応用次第では、人や移動車などを赤外線カメラから隠すことが可能になる」とのことです。
研究の詳細は、12月17日付けで「PNAS」に掲載されました。
https://www.pnas.org/content/early/2019/12/16/1911244116
物体の「熱放射」を最小限に抑える
物質の名前は「サマリウム酸化ニッケル(samarium nickel oxide)」。この物質自体は10数年前に発見されており、それ以来研究チームはこの物質の特性を詳しく調査してきました。
その中で見つかった大きな特徴の一つは、温度の上昇に伴い、電気抵抗が「絶縁状態」から「伝導状態」に変化することです。
熱放射率は絶縁体で大きくなり、放射率が大きいほど、赤外線をより多く発するため、赤外線カメラで見えやすくなります。しかしサマリウム酸化ニッケルは、この特性により、熱放射の上昇を留めることができるようです。
研究チームは、数種類の物質を使って、温度上昇に伴う熱放射量の違いを比較しました。
上の四角いプレートは、「ウェハー」と呼ばれる半導体板で、それぞれサファイア・石英ガラス(fused silica)・サマリウム酸化ニッケル(ZDTE)で表面をコーティングしています。
一番上の「黒体(black body)」は、吸収した熱をそのまま100%放射する仮想の物質で、これが基準となります。実験では、それぞれのプレートを100〜140度の間で熱し、熱放射量を測定しました。
結果は一目瞭然で、上部3つの物質は高い熱放射を見せましたが、サマリウム酸化ニッケルは、熱の増加にかかわらず、熱放射は最小限に抑えられています。
そのため、サマリウム酸化ニッケルを使えば、赤外線カメラから物体を効果的にカモフラージュすることが可能になるでしょう。しかし現段階では、熱放射の変化をゼロに留められておらず、今後の改良が期待されます。
結果次第では、対熱センサーへの新たなステルス技術が誕生するかもしれません。サマリウム酸化ニッケルを用いた防具が開発されれば、わざわざ身体に泥を塗らずとも、プレデターから身を隠せますね。