- ヘビ毒腺から採取した幹細胞を培養することで、ペトリ皿上で本物と同じヘビ毒を生成することに成功
- ヘビ毒は血清や解毒剤だけでなく、止血剤や鎮痛剤など多種多様な薬剤製造に応用できる
毒ヘビの咬傷による死者は、世界中で年間10万人を数えます。ヘビ毒による重症や麻痺患者を含めると、その数は40万人以上です。
それにもかかわらず、ヘビ毒の血清や解毒剤の作り方は、19世紀以降ほとんど進歩していません。その方法は、毒ヘビから直接毒を絞り出して、馬などの動物に少量ずつ注入し、体内に抗体を作らせるというものです。
これでは手間や時間がかかりすぎますし、毒抽出時の危険性もあります。
しかし今回オランダ・ヒューブレヒト研究所により、ペトリ皿上で迅速かつ安全にヘビ毒を作り出す画期的な方法が開発されたのです。
これにより、ヘビ毒を利用した薬剤の製造方法に革新が起こるかもしれません。
研究の詳細は、1月23日付けで「Cell」に掲載されています。
https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(19)31323-6
毒腺の細胞を培養する
この方法は、人工ミニチュア臓器「オルガノイド」にインスピレーションを受けて誕生しました。
オルガノイドとは、人やマウスの臓器を本物そっくりに小型化して作るもので、試験管内で3次元的に生成されます。研究チームは「オルガノイドでヘビ毒腺の人工臓器もつくれるのではないか」と考えました。
方法は以下の手順で行われます。
まず、毒ヘビから毒を分泌する器官である「毒腺」を採取。そこから幹細胞を分離し、ミニ臓器としてペトリ皿上で培養します。
当初、培養時の温度を人と同じ37度に設定していましたが、上手くいきませんでした。ヘビが人より体温が低いためです。
そこで、32度に設定し直して再チャレンジ。すると、幹細胞は順調に成長していき、見事ミニチュアの毒腺が完成しました。
高解像度の顕微鏡で観察すると、毒腺のオルガノイドは、本物の毒ヘビが作るのと同じ毒素成分を生成していました。結果、数ヶ月間で、数百を超えるミニチュアのヘビ毒腺を培養することに成功しています。
この方法を用いれば、毒ヘビを一から飼育して、毒を抽出する手間や予算もカットできますし、幹細胞を培養していけば、半永久的にヘビ毒を入手できるかもしれません。
また、ヘビ毒は、血清や解毒剤だけでなく、止血剤や降圧薬、鎮痛剤など、多種多様な薬剤の製造に利用されています。
今回採取された数百の毒腺からも、様々な薬剤の生成が期待できるでしょう。