- 年代物スコッチウィスキーの偽物を炭素年代測定で明らかにする研究が発表された
- 炭素年代測定に用いられる炭素14は、1950年以降、核実験の影響で濃度が高くなっている
- このため1950年以降のウィスキーは正確に年代が特定できたが、結果4割のヴィンテージが偽物だった
年代物のウィスキーを愛好する人は、お酒好きに多いかもしれません。
けれど、オークションや転売で購入するような年代物のウィスキーは、本当にそのラベル通りの年代なのでしょうか?
2018年だけでも、英国のオークションで販売されたスコッチ・ウィスキーの合計額は約4000万ポンド(約57億円)といわれていて、もっとも高額なボトルは「1926年 Macallan Valerio Adami」で1億円以上の値段で取引されました。
しかし、取引されている年代物のスコッチ・ウィスキーの中には相当数の偽造品があると言われています。
偽造スコッチはもはや偽札並みの大問題なのです。
しかしこれまで、ウィスキーの蒸留年を特定することは非常に困難でした。
そこで新しい研究では、忌むべき偽造ヴィンテージ・ウィスキーを駆逐するべく正しい年代を調査。
その結果、冷戦時代に乱発された核実験の影響から、ウィスキーの蒸留年を炭素年代測定できるようになりました。
この研究は、英国スコットランド大学連合環境研究センター(SUERC)のGordon Cook教授を筆頭とした研究チームより発表され、ケンブリッジ大学が発行する放射性炭素年代測定に特化した科学雑誌『Radiocarbon』に1月8日付けで掲載されています。
https://doi.org/10.1017/RDC.2019.153
炭素年代測定ってなに?
今回活躍したのが、よく化石や地層の年代調査に用いられる炭素年代測定です。
炭素14という炭素の放射性同位体を利用して、どのくらい時間が経ったものかを調べることができます。
同位体とは、通常の元素より中性子数が多い元素のことです。
原子の化学的性質は陽子の数で決まっています。中性子は電荷を持たない粒子で、この数が増えても原子は重くなるだけで化学的な性質が変わりません。
通常の炭素は、陽子6個、中性子6個の計12個の粒子で原子核が構成されていますが、炭素14は陽子6個、中性子8個の計14個の粒子で原子核が作られます。
重い原子は不安定なため、放射性崩壊を起こしてより安定した状態へ変化しようとします。炭素14はベータ崩壊によって余分な中性子が電子やニュートリノを放出して陽子に変わり、炭素より1つ陽子の多い元素、窒素14に変わります。
放射性崩壊は量子力学的な現象なので、確率に支配されています。どの原子がいつ崩壊するかはわかりませんが、ある一定期間の間に崩壊する原子の数は確率で明らかにできます。
この不安定な同位体の半数が崩壊して、別の安定した原子に変わるまでの期間が「半減期」です。炭素14の半減期は5730年です。
炭素14は、上層大気内に含まれる窒素14が宇宙線を浴びて変異することで生まれます。化学的な性質は普通の炭素と変わらないので、酸素と結びついて二酸化炭素になり、重くなったために地上へ降りてきます。
そして、植物に光合成のために吸収され、その植物を動物が食べると、生き物の中に蓄積されるというわけです。
こうして炭素14は植物や動物の中に蓄積されます。ただし炭素14が生成されるのはまれな現象なので、その数は全炭素の内、約1兆分の1%しか存在しません。
例えばある化石の炭素14が、この化石に含まれる全炭素から推定される濃度の4分の1しかなかった場合、それは化石の中に炭素14が取り込まれてから2回の半減期が過ぎていることを意味します。
つまりこの化石の年代は(5730年*2=11460年)以上昔のものだと推定できるのです。
こうした方法で、炭素年代測定は物質の年代を特定するのです。