核実験とヴィンテージウィスキー
炭素年代測定は、炭素14があまりに微量な物質なので、かなり難しい測定方法でした。ところが、この炭素14の濃度がある時を境に急上昇したのです。
それが、冷戦時代の黒歴史、核実験です。
日本ではビキニ水着の語源にも成っている、漁船の第5福竜丸が巻き込まれたビキニ環礁の核実験を連想する人も多いでしょう。
こうした大気圏内の核実験は1963年に部分的核実験禁止条約が締結されるまでに、実に502回も行われたと言われています。
この影響で、大気中の炭素14の濃度が大きく増加したのです。
この炭素14は、ウィスキーの材料となる大麦の中にも蓄積しました。研究チームはこの大麦から1950年以降の炭素14の濃度変化をデータベース化していました。
そして、このデータを元にすることで、本来なら、炭素年代測定を行うことが難しい少量のウィスキーでも、1950年以降のものならば蒸留年を誤差1〜3年で特定できるようになったのです。
ウィスキーは瓶のガラス質や、ラベルの紙質、酒の化学分析から年代の真偽についてある程度判別することは可能でした。しかし、蒸留年を特定する方法は、これまでなかったのです。
上の画像は研究で炭素年代測定が試された1863年蒸留と記載されたスカイ島の銘酒「タリスカー」です。しかし、炭素年代測定の結果、中身は2005年以降の蒸留でした。
他にも研究者たちは、様々なヴィンテージウィスキーを調査しましたが、1964年のアードベッグのボトルはおそらく1995年以降の蒸留で、1903年とラベリングされていたラフロイグは、2011年以降の蒸留という結果でした。
研究チームが過去3年間で分析したヴィンテージウィスキーは、その40%が最近蒸留された偽物でした。
これは由々しき問題ですね。ヴィンテージウィスキーを購入される方は、これからは炭素年代測定のお墨付きをもらったものを購入しましょう。
ちなみに、筆者が好きなのはピートの効いたアイラ島のスコッチです。「やっぱ30年は違うね!」なんてドヤ顔で飲んでいた、あのラフロイグは蒸留されて数年のものだったんでしょうか…。