- 生物より多い遺伝子を持ち、免疫能力を備えたウイルスが存在することがわかった
- 単独ではエネルギー代謝も自己複製もできない生物が存在することがわかった
上の図のように、ウイルスは核酸とタンパク質の殻からできています。単独ではエサをとったり、光合成でエネルギーを生み出したりことも消費することもできません。
自分の力だけでは増えることができず、感染した細胞の自己複製装置を利用します。
このような性質から、ウイルスの遺伝子は「ただ増殖命令だけが記された簡素なもので、生物と無生物の間の存在だ」と言われてきました。
しかし、近年になって複雑な遺伝子を持った「生物のようなウイルス」や、生命活動に必須な遺伝子の多くを宿主に依存する「ウイルスのような生物」が発見され、生物と無生物の境界が非常に曖昧になっています。
そこで今回アメリカの研究者によって、膨大な遺伝子を持つウイルスである「巨大ファージ」の詳細な遺伝解析が行われました。
ファージとは、機械的な外観をした、主に単細胞のバクテリアに感染して増殖するウイルスです。
なぜ巨大ファージは不必要なはずの免疫力を持つに至ったのでしょうか?
研究結果はカリフォルニア大学のBasem Al-Shayeb氏らによってまとめられ、2月12日に学術雑誌「nature」に掲載されました。
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2007-4
生物より多い遺伝情報を持ったウイルス
研究者たちはまず、妊婦の内臓からチベットの温泉まで、30の異なる地球環境から351種類の巨大ファージウイルスを特定し、遺伝解析を行いました。
巨大ファージは主に、宿主となる単細胞のバクテリアがいる環境に存在しています。
結果、最も大きなファージは73万5千塩基対を持ち、多くの細菌よりもはるかに大きいDNA量を持っていることがわかりました。
これら余剰とも言える遺伝子は、通常はバクテリアにみられるものです。
巨大ファージは感染した宿主の細菌に自分のコピーを作らせるだけでなく、宿主のバクテリアから大量の遺伝子を引き継いでいたのです。
これらの遺伝子の中には皮肉にも、元々はバクテリアがウイルスと戦うための獲得免疫を担うCRISPRシステムも含まれていました。
ウイルスに免疫システムがみつかったのは、今回の研究が初めてです。
ただし、感染を恐れる必要のない巨大ファージのCRISPRシステムは少し特殊で、感染した細菌のCRISPRシステムを強化して、競合する他のウイルスの排除に使われていました。
さらに巨大ファージの遺伝子には、これまでウイルスには存在しないと考えられていた、自己複製にかかわる遺伝子もみられました。
巨大ファージは宿主の複製能力を乗っ取ると、これらの遺伝子を使って自己の複製速度をブーストすると考えられます。
この発見は、ウイルスが自己複製を他者に頼り切ってきたとする従来の見解を覆すものです。