- 物理学的には、時間に決まった方向性はなく、逆転させても成立する時間対称性が存在している
- 私たちが時間を一方向の流れに感じるのは、単に統計的に起こりやすい事象を未来と捉えているため
- 新たな研究は高精度のシミュレーションで、たった3つの相互作用で時間対称性は成立しないことを示す
時間は過去から未来へ向けて流れるものです。逆はありえません。
しかし、そんな私たちの常識とは裏腹に、物理学の世界では特に時間の逆行を禁止していないのです。
「んなアホな」と思うかもしれませんが、物理学の運動法則は時間の方向に関係なく、同じ様に機能します。
物理的には時間の方向に優先度はないのです。これを物理学では「時間対称性」と呼びます。
では、なぜ時間は絶対に過去から未来へ向けてしか流れないのでしょう? または、なぜ私たちにはそのようにしか感じられないのでしょう?
これまでの物理学では、この原因を非常に多数の物体が相互作用した場合、統計的に元の状態へ戻ることが難しいためだ、というカオスやエントロピーが絡んだ理屈で説明してきました。
しかし、新しい研究は、高精度のシミュレーションの結果、それがたった3つの粒子の相互作用だけで説明可能であることを明らかにしています。
果たして、私たちが感じる時間の流れとは一体なんなのでしょうか?
この研究は、オランダのライデン大学の天文学者Tjarda Boekholt氏を筆頭とした研究チームより発表されており、論文はイギリスの天体物理学を扱う査読付き学術雑誌『王立天文学会月報』4月号に掲載されています。
https://doi.org/10.1093/mnras/staa452
時間の流れとはなんでしょう?
物理学では時間の方向は特に指定されていません。
これは時間対称性と呼ばれる法則で、ある時刻から別の時刻への運動を観察した場合、それが順方向の時間で見ても、逆回転した時間でも見ても、同じことになります。
よく意味がわからんという人は、例えば卓球の試合を思い浮かべてみましょう。
この試合映像は順再生でしょうか? 逆再生でしょうか?
GIFなのでオチが先に見えてしまったかもしれませんが、打ち合うボールが最後はサーブしようとする選手の手に戻るので、これが逆再生ということがわかります。
運動法則は、時間の流れを順逆交換しても、基本的には同じ様に機能していて違いがありません。
重力の作用や打ち返す力の作用を考えると加速と減速が逆転していたりはしますが、力のベクトルが逆に作用しているだけで法則としては同じことです。
しかし、私たちは明らかに時間の流れる方向というものを意識しています。溢れた水は元に戻りませんし、粉々に割れたコップが自然に元の状態へ戻ることもありえません。
こちらの逆再生は、誰が見ても明らかにおかしいと理解できます。
3つ以上の物体が絡んだ運動は、非常に計算が複雑になります。多数の物質が絡む運動はカオス理論が支配しています。
カオス理論とは、ほんのちょっと最初の状態に差があったり、動きに違いができたりすると、それがどんどん増大して予測不可能な結果を生んでしまうという理屈です。
特に液体や気体は、非常に多くの分子を含んでいるため、その運動は確率的にしか言及できません。
そして、物質の運動は、統計的に整った状態からバラバラの状態へは移行しやすいですが、その逆は基本的に起こりません。
秩序だった状態から、バラバラの混沌とした状態へ移行することを、熱力学ではエントロピーの増大と表現します。エントロピーは時間と共に増加していきます。
私たちが時間に方向性を感じ、過去と未来を区別できるのは、この物理学的に起こりやすいことと、起こりづらいことがあるためです。
バケツの水は飛び散ることは容易ですが、集まって元のバケツに戻るということは統計的にありえない運動です。これが現象に不可逆性を生み、時間に一方向の流れを与えているのです。
と、これまでは説明されてきました。