ウイルスにより脳がダメージを受ける仕組み
上にあげたように、複数の研究でウイルスが脳にダメージを与えることがわかりました。
ウイルスが脳へダメージを与える仕組みとして考えられているものには、次の3パターンが存在します。
1つ目は、ウイルスが血管に感染したことで血管が損傷して血栓を生成され、それが脳血管をつまらせた可能性です。
これは現在最も広く知られている事例です。特に生活習慣病をもつ人や高齢者など、血管が弱っている人はウイルスの血管に対する攻撃に脆弱で、より多くの血栓を生成してしまいます。
また第2には、ウイルスが鼻腔や肺の神経から遡って脳に到達した可能性です。
これは新型コロナウイルスの仲間であるSARSやMERSが脳に侵入するためにとった手段と同じです。
SARSやMERSの患者の脳細胞からは実際にウイルス粒子が検出されました。
新型コロナウイルスはSARSやMERSと同じ種類のウイルスであり、ゆえに侵入方法も同じ可能性があります。
またウイルス感染により、多くの重症者から自律的な呼吸能力が失われることが知られており、呼吸を制御する脳幹にウイルスが感染している可能性も示唆されています。
そして第3には、ウイルスが脳関門を突破して血管から脳に感染した可能性があげられます。
脳関門は脳に繋がる血管のフィルターとしての機能がありますが、いくつかのウイルスは関門を突破する能力があります。
重症化したインフルエンザウイルスの感染患者では、脳関門を突破してウイルスが脳内で増殖することが知られています。
新型コロナウイルスが脳関門を突破する能力を持っていた場合(あるいは変異で獲得した場合)、新型コロナウイルスは脳内で増殖すると考えられます。
というのも、脳細胞の表面には、新型コロナウイルスの標的となるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)が存在しているからです。
しかし残念なことに、死亡した患者の脳から新型コロナウイルスを直接観察することにはまだ成功していません。
感染のリスクが高すぎるために、学問的な研究を十分に行うことができないからです。
感染症の研究を行うには、大規模な防疫設備も必要となります。