1110年に月が消えた、という記録
この調査の中で気になる記録が見つかりました。それは1110年5月に起きた月食の目撃例で、それは例外的に暗かった、もしくは完全に月が消失したと記されています。
これは中世の記録「ピーターバラ年代記」の中にも記載されていて、「夕方、明るく輝いていた月が、夜になると完全に消えてしまい見えなくなった」と記されています。
月食は通常、月が赤銅色に輝きます。しかし、数世紀後のイギリスの天文学者ジョージ・フレデリック・チェンバースは「1110年の記録にある月食は、なじみ深い銅色に輝く月食ではなく、完全に月の消失であった」と書いています。
この出来事は天文学の歴史の中では有名なものですが、その原因については明確に示唆されていません。今回の研究者たちは、この月消失イベントが、火山性エアロゾルによって引き起こされたと推測しています。
また研究者たちは木の年輪にも着目しました。この調査によると1109年は年輪が著しく細くなっており、例外的に寒い年であったことが示唆されています。
ヨーロッパの古い文献の中からは、1109年から3年間に渡る悪天候、不作、飢饉に関する記述が多く発見されました。
1108年以降、数年に渡り世界的な異変が起きていたことは確かなようです。
そして氷床コアに残る硫黄降下物の痕跡年代から見ても、その厄災は大規模な火山噴火が原因であった可能性が高いのです。
しかし、アイスランドのヘラク火山でないとしたら、この世界的な災難は、一体どの火山がもたらしたのでしょうか?