世界で3000種以上、日本でも360種ほど確認されているトビムシは、どこにでもいる平凡な虫です。
ところが、彼らは生物界ナンバーワンと目される「高速スピン能力」を持っています。
その回転力は、フィギュアスケーターは言うに及ばず、レーシングカーのモーターをも上回るというのです。
驚異の回転力の秘密に、ノースカロライナ自然科学博物館のエイドリアン・スミス博士が迫りました。
他の昆虫にはない「跳躍バネ」を装備
トビムシは、非常に小さな体格をしています。
全長1.5ミリ、高さ1ミリほどしかなく、爪楊枝と比べてもこれほど小さいのです。
これほどのサイズにもかかわらず、他の昆虫にはない「跳躍器」という器官がお腹にあります。
2又になった棒状の器官で、普段は下腹にぴったりとくっつけられていますが、危険を察知すると、筋肉の収縮を利用してバネのように弾き出すことで、後方にスピンしながらジャンプします。
スミス氏は、トビムシの跳躍をハイスピードカメラで撮影し、そのメカニズムを詳しく調べました。
約50匹のトビムシを撮影した結果、驚くべきデータが明らかになっています。
体長1ミリ程度にもかかわらず、垂直跳びの到達点は4.8センチで、回転数は最高で1秒間に374回転を記録しました。
これは、2万2440rpm(1分間の回転数)に相当します。
ヘリコプターの回転翼は、平均250〜660rpm。さらに、レーシングカーのモーターでも、7000〜1万5000rpmです。
トビムシの凄さが分かりますね。
また、飛び始めの回転数は平均して255回転/秒、最高到達点で150回転/秒でした。加速度を計算すると、700m/s2(メートル毎秒・毎秒)に達していました。
これは、1秒間に700メートルずつ加速する値です。
最高到達点に達したあとは、回転数を落としながら落下し、地面でバウンドします。
また、スミス博士は「トビムシの跳躍にはマグヌス効果が働いている」と指摘します。
マグヌス効果とは、発射された弾丸がカーブする理由について説明した理論で、一言で言うと、回転しながら直進する物体には、進行方向に対して垂直の力(揚力)が働くというもの。
例えば、右回転の弾丸は、直進するにつれて、左上後方に向かって空気の流れを起こします。これにより進行方向に対して垂直に下向きの力が働いて、弾が少しずつ曲がっていくのです。
スミス博士によると、生物界でマグヌス効果が働いている種はいないそうで、トビムシが第一号となるかもしれません。
トビムシは、地球一の回転力を持ちながら、畑や歩道、駐車場、植物の上など、どこでも見かけられます。
まさに、トビムシは気軽に会いに行けるナンバーワンなのです。