何度も砕けてはくっついたフォボス
火星の衛星フォボスは、火星の地表6000kmというかなり近い位置を回っています。これは太陽系の惑星が持つ衛星の中でも、もっとも主星に近い衛星です。
新しい研究では、フォボスとダイモスは約45億年前、小惑星の衝突でできた火星のリングがくっついて生まれたと考えています。
そして、このとき形成されたフォボスは現在より20倍質量が大きく、また現在より軌道は外側にあって、ダイモスへの影響も大きかったと考えられます。
この状態を考慮して数値シミュレーションすると、ダイモスの軌道はピタリと現在の傾いた軌道に一致したのです。
ではフォボスが現在の姿へ変わった理由はなんでしょう?
フォボスは過去に少なくとも2回、火星に近づきすぎたために砕けてリングとなり、再びくっついて衛星になったと考えられます。
実際フォボスは現在も火星へ向かって年間1.8cm落下し続けています。そして1億年以内に再びロシュ限界を超え、火星との潮汐力で砕けてリングになると考えられているのです。
ロシュ限界というのは、惑星や衛星が破壊されずに主星に近づける限界の距離を指します。ここを超えると衛星や惑星は潮汐力によって引き裂かれてしまいます。
デイモスの傾いた軌道を説明するためには、フォボスはなんどか生まれ変わり、そのたびに火星にリングを作っていた必要があるのです。
火星のリングは一部は引き込まれて星に降り注ぎますが、一部は逆に外側へ押し出されそこで再びくっついて衛星を生みます。
静かな惑星に見える火星の周囲では、なんとも劇的な変化が繰り返されていたようです。
日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、2024年にフォボスへ探査機を送り、地表からサンプルを持ち帰る計画を進めています。
もし実現されれば、こうした理論を補強する新たな事実が見つかるかもしれません。
この研究は、SETI研究所のMatija Cuk氏を筆頭とした研究チームより第236回アメリカ天文学会で発表され、論文は『The Astrophysical Journal Letters』へ掲載予定です。また論文は、プレプリントサーバーで公開されています。
https://arxiv.org/abs/2006.00645