廃人になったアシモフ
研究者がアシモフを哀れに思ったからかは不明ですが、研究者はアシモフに再び薬を与えました。
するとアシモフは再びクスリを食べるようになりました。
ですが今度は少し様子が違います。
禁断症状から回復したアシモフにとって、今や全ての行動原理はクスリを食べることになっており、美味しいエサに見向きもしなくなっていたのです。
研究者はアシモフの心(のような何か)が完全に変質していると気付きます。
そこで、研究者は今度はクスリを減らすのではなく、完全な断薬を行いました。
アシモフはそれでも世界を彷徨いクスリを探しましたが、当然みつけられません。
そして激しい禁断症状がアシモフを襲いました。
今や、アシモフが快楽を得る方法は、食べ物を食べて満腹になる以外には存在しないのです。
そのためアシモフは仕方なく、以前のようにエサを食べて満腹になり、快楽を得ようとしはじめます。
ですがここで再び、研究者は興味深い現象をアシモフにみつけます。
アシモフの周りには以前と同じように、栄養価のある美味しいエサと、栄養価はあっても毒があるエサが置かれたのですが……
上の図のように、アシモフは目の前にある食べ物を、無秩序に食べ始めたのです。
たとえ毒エサの山が目の前に現れた場合にも、アシモフ以前のように避けようとはせず、毒エサに噛り付くようになっていました。
クスリの快楽と禁断症状がもたらした報酬系の激しい変化が「アシモフからアシモフらしい好みを奪っていた」のです。
エサでも毒でも関係なくかじりつくアシモフは、もう以前のアシモフではありませんでした。まさに廃人です。
同じような結果は人間を含めた動物でも知られています。
中毒性の高いクスリは、その動物の固有の動物らしさ(猫なら顔を洗うなど)を奪い、人間からは人間らしさを奪います。
研究者の仮説は実証されました。
人が人であるために必要な人間性もまた、ウミウシの脳のように報酬の上に築かれた、もろい性質を持っていたのです。