- 五角形の炭素結合の組み合わせで、新しい炭素結晶が構築可能なことが理論的に予言された
- シミュレーション結果では、この炭素結晶はダイヤモンドより軽くて高い強靭性を持つ
- この結果を元に、新しい高硬度材料の開発などが期待される
ダイヤモンドはモース硬度(物質の傷つきにくさ)が最高の10という、天然の物質としては最高クラスの硬さを有する高硬度材料です。
この硬さと結晶の美しさから愛の強靭さを示す贈り物としても、研磨・切削用の工業材料としても、世間で幅広くもてはやされています。
けれどこのダイヤモンドは見た目の美しさとは裏腹に、炭などと同じ炭素結晶であることが知られています。炭素は原子価が4つあり、安定して多様な結合を作ることができるのです。
このため材料研究では、古くから興味の対象になっていて、炭素を使ってより扱いやすく強靭な材料を生み出そうとする研究も盛んに行われています。
そして、筑波大学の研究チームは、こうした研究から5つの炭素原始を環状に結合することで、新しい結晶構造が存在可能であることを報告しています。
これは理論的な予想の段階ですが、量子力学に基づくシミュレーションの結果では、この新たな炭素結晶は、ダイヤモンドより軽くて強靭であることが示されていて、「ペンタダイヤモンド」と名付けられています。
この研究論文は、科学誌『Physical Review Letters』に掲載されていますが、その成果の重要性から同誌の「Editors’Suggestion(編集者推薦論文)」に選ばれています。
ダイヤを超えるダイヤ 「ペンタダイヤモンド」とは?
炭素はさまざまな結合形態から多様な構造が存在し、黒鉛やダイヤモンドなど、複数の物質を生み出すことができます。
生命に必要な基本元素としても炭素は重要な存在です。
そして、その構造に強く依存した物性を有するところから材料研究の分野でも注目されています。
炭素結晶は、原子同士の共有結合が極めて強力なため、軽量な高硬度材料を生み出せるとして、さまざまな結晶構造がこれまでも、合成されたり、理論的に予言されたりしてきました。
研究チームは極めて対称性が高い3次元炭素共有結合ネットワークを幾何学的な考察から導き出しました。
そして、5角形に並んだ炭素原子がすべての辺を共有させた、3次元構造が構築可能であることを予言したのです。
予言とか言われると、ついスピリチュアルなイメージを持ってしまう人もいるかもしれませんが、科学技術は基本的にまず理論的な予言・予想を行い、そこから実証実験に移るというプロセスを踏んで進化していきます。
そのため、こうした予言は技術が新たな段階へ踏み出すための非常に重要な布石となるものです。
こうして考え出された5角形を基本とした炭素結晶がペンタダイヤモンドです。
この構造はダイヤモンドと比べると6割程度の密度しか持たないため、極めて軽い結晶です。
さらに量子力学に基づく物性シミュレーションを行った結果、ペンタダイヤモンドは安定した炭素結晶であり、さらにダイヤモンドの8割に及ぶ体積弾性率(硬さの指標)、1.3倍のヤング率(変形のしにくさ)、1.8倍の剪断弾性係数(鉛直方向の物質の歪みにくさ)を有するとわかりました。
これまでもダイヤモンドより高い弾性率(歪みにくさ、硬さ)を持つ結晶などは提案されてきましたが、トータルでこれだけ高い弾性率を示した炭素結晶は知られていません。
これは、今後合成を目指すべき新しい炭素結晶が示されたことを意味します。ここから炭素物質科学に新たな展開が開かれるかも知れません。