新たな太陽フレアの予測モデル
今回の研究グループは、太陽フレアの予測に、過去のデータから統計的な予測をするという方法を一切やめてしまいました。
ではどのように予測するかというと、研究グループは太陽表面の磁場の不安定性に目を向けたのです。
太陽の表面は非常に複雑な磁場に覆われていて、磁力線でできた巨大な毛糸だまのような状態です。
太陽フレアはこの磁場の中にエネルギーが蓄積されていて、磁場が不安定になり磁力線の繋ぎ変えが起きたとき発生しています。
研究グループは、この磁力の不安定性の物理モデルを構築することで、太陽フレア発生を決定する新しいパラメータを導き出したのです。
そして、NASAの過去の観測データなどから、過去10年間の巨大太陽フレアの発生した7つの活動領域と、巨大フレアを起こさなかった198の活動領域を解析した結果、どのような条件が満たせば巨大フレアが発生するかを、この物理モデルから特定しました。
このモデルを使うと、どの地点でどれほどのエネルギーが開放されるかを事前に計算することができ、太陽フレアの発生位置と規模を推定することが可能になります。
フレアは雪山で起きる雪崩に似ていると言います。雪崩は何日もかけて少しずつ降り積もった雪が一気に崩れ落ちてくる現象です。
太陽フレアも同様に何日もかけて磁場の中に少しずつ蓄えられたエネルギーが一気に崩れて放出される現象だと言えます。
従来の経験的な予測は、雪崩がどのような形状の山でなら起きやすいと発生確率を予想することに似ていて、こういう大きさの黒点や磁場の形状だと巨大太陽フレアが起きやすい、と予測していたのです。
しかしこうした予測精度はわずか50%未満しかありませんでした。
新たな方法は、降り積もった雪の量や分布から、どの程度の亀裂が起きたら雪崩になるか予測することに似ています。得られた太陽表面のデータを元に、物理法則に従って巨大太陽フレアの発生を予測するのです。
そしてこの方法は80%近い予測精度を実現しました。
巨大太陽フレアは主に電線や電子機器にダメージを与える見えない自然災害です。そのため古い時代はさほど大きな被害にならなかったり、まったく気づきもしない現象でした。
しかし、現代は社会システムのほぼ全てをコンピュータ制御に任せています。電子機器を破壊する巨大な磁気嵐が地球を直撃した場合の被害は計り知れません。
太陽フレアはまれな現象のため、経験的な予測には限界がありました。今回の研究成果は、宇宙天気予報の精度向上に大きく貢献すると期待されています。
この研究は、名古屋大学宇宙地球環境研究所所長の草野完也教授率いる研究グループより発表され、論文は科学誌『Science』に7月31日付けで掲載されています。
https://science.sciencemag.org/content/369/6503/587