自己認識と精神疾患の治療
実験が作り出した錯覚は、参加者に自己矛盾を生み出しました。しかし、参加者が自己認識を新しい身体に調整することで、この自己矛盾は解決されていったようです。これは自己統一の貴重なサンプルとなるでしょう。
さて、私たちの自己認識はどのように確立されているのでしょうか?
謎の多い分野ですが、ある仮定は「自己は過去の経験(記憶)や社会的関係によってのみ決定される」としています。
しかし、タシコフスキー氏らの入れ替わり実験は、この仮定に挑戦するものとなりました。記憶や関係性だけでなく、身体が心理的感覚の継続的構築(つまり自己認識)に大きな影響を与えていると考えられるからです。
さらに今回の研究結果は、精神疾患である離人症がどのように起こるのかについて、科学者たちの理解を深めるものとなりました。
うつ病患者の多くは非常に強い自己否定感を抱いています。これはつまり自己矛盾を抱えていることになるでしょう。
そのため、入れ替わり錯覚が治療に利用できるかもしれません。錯覚によって自己矛盾を解消したり、うつ病患者に肯定的で堅苦しくない見方を与えたりできるかもしれないのです。
今後研究チームはさらなる情報を得るべく、MRIスキャナーを用いて神経レベルの作用を調査する予定です。