ハエの目の秘密
キラーフライは、他のハエと比べて目の光受容体細胞に多くのミトコンドリアを含んでいることがわかっています。
ミトコンドリアはいわば細胞のバッテリーです。キラーフライは、その驚異的なフリッカー融合頻度を実現するために多くのエネルギーを消費していました。
彼らが同族のハエを捕食するのも、このエネルギーを維持するためだと考えられます。
キラーフライは同族の中でも飛び抜けて速い種ですが、たとえ人間と細胞内のミトコンドリア数が同じだったとしても、ハエは脊椎動物とはまったく異なる構造の目を持っているため、人間よりはるかに速い視力を手にしています。
ハエの目の構造的な変化は、節足動物と脊椎動物の進化が枝分かれした約7億年前に起こったと考えられています。
ハエの目は光が通過する経路に対して水平に並んだ糸のように光受容体が並んでいます。対して脊椎動物は光に向かって長い円筒状に光受容体が並んでいるのです。
こうした構造の違いによって、脊椎動物は光に対して化学的な反応を示しますが、ハエは光に機械的な反応を示します。それはより速い神経伝達信号を可能にするのです。
また、鳥も人間より高いフリッカー融合頻度を持っています。実験ではアオサギの目は1秒間に146回の点滅を識別できたと報告されています。
これはハエほどではないにしろ、人間の約2倍です。
飛行する生物が高いフリッカー融合頻度を手にした理由は、飛行中障害物にぶつかることを避けるため、より鋭敏な反応速度を必要としたからだと考えられています。
速さに対応できた者は、獲物を狩る際にも有利になりその遺伝子をより多くの子孫に伝えることができたでしょう。
何億年にも渡る自然淘汰の結果、ハエは人間をはるかに凌駕する素早い視力と反応速度を獲得しました。
人間とハエの戦いは、世界をスローモーションで捉える能力者と一般人が戦っているようなものなのです。ハエに正面から構えられれば人間が攻撃を当てることはほぼ不可能でしょう。
人間の攻撃はハエにとって一撃必殺ですが、彼らを潰すには不意をつく以外手がないようです。