遠くの星系から検出された重力赤方偏移
重力の影響で時間が遅延するという事実は、X線を含むすべての種類の光(電磁波)にも影響を与えます。
光には単位時間あたりの振動回数で表される周波数というものを持っています。可視光では周波数が低いと波長が伸びて赤く見え、周波数が高い波長が縮んで青く見えます。
重力の強い場所で時間の進みが遅くなるということは、遠方からそれを観測した場合、単位時間当たりの振動回数が減って波長が伸びて見えることを意味しています。
これは私たちの目から見ると、重力の影響を受けなかった光より重力の影響を受けた光のほうが波長が赤い方(長波長)へズレでいるように見えるのです。このため重力赤方偏移というのです。
では、光の波長がズレているという事実をどうやって見つけ出すのでしょうか?
そこで役立つのが元素の吸収スペクトルです。
今回チャンドラの観測した4U 1916-053から検出されたX線には、明らかな鉄とシリコンの吸収スペクトルが確認されました。
この画像の灰色の線がチャンドラの観測したX線スペクトルの特徴です。赤い線はコンピューターで計算された鉄とシリコンの吸収スペクトルの特徴です。
2つを重ね合わせると、それぞれきれいに一致するのがわかります。
これは中性子星を取り巻くガスの成分によって、X線の特定の波長が吸収されたためだと考えられます。ガスの中に鉄やシリコンが含まれているのでしょう。
しかし、この観測された吸収スペクトルは、地球上で見られるスペクトルよりも波長が赤い方(長波長)へズレていました。つまり赤方偏移を起こしていたのです。
赤方偏移は天体が地球から遠ざかっている場合にも確認されます。これはドップラー効果によるものですが、今回確認されたスペクトルのズレは天体の移動では説明できない大きさでした。
つまり、中性子星の強い重力の影響によってX線が重力赤方偏移を起こした証拠だと言えるのです。
研究チームが今回の重力赤方偏移の影響と、予想される中性子星の質量を元に計算したところ、このX線が通ったガスは中性子星から約2400キロメートルの距離にあるとわかりました。
これは北海道から沖縄くらいの距離です。
こうした中性子星の近くでは、はっきりと一般相対性理論が唱える重力赤方偏移が観測で確認できたのです。
機器性能の向上で、机上の中だけにあった一般相対性理論の効果は、現在私たちの日常必需品の中から、遠い宇宙のX線の中までさまざまなところで現実に確認できるようになりました。
重力のせいで、宇宙のあちこちで時間の流れが遅れているというのは、なんだかすごい話ですね。