人間には「匂いのマーキング」が通じない

猫が人間の生活圏に入り込むんだのは、およそ1万年前。
広大な砂漠地帯に住んでいた野生の猫は、同じ種のメンバーに出会うことは極めてまれであり、コミュニケーションをとるために声を使う必要がありませんでした。
代わりに野生の猫たちがコミュニケーションに用いたのは自分の臭いだったのです。
木に体をこすりつけたり排尿することで発生する匂いは、長い間同じ場所に留まり続けます。その匂いを自分をあらわすマーキングとして利用していたのです。
しかし悲しいことに、この「匂いのマーキング」は、一緒に暮らすようになった人間には通じませんでした。
人間の嗅覚は鈍く、猫の残した匂いを嗅ぎ取ることができないのです。
人間に対していくら縄張りを主張しても、人間たちは勝手に肉や魚を焼き、食べてしまいます。
猫の感覚では、これはルール違反です。
縄張りの中の食べ物は、本来なら縄張りの所有者である自分のもの。
人間たちが焼いている肉や魚が、実は遥か離れた場所から獲ってきたものであったとしても、そんな都合は猫にとって関係ありません。
しかし人間を追い出すことは猫には不可能でした。
野良猫は「ニャー」と鳴かない
この場合、野生の掟に従うならば選択肢は2つしかありません。
このまま共存を続けるか、縄張りを去るかです。
しかし人間の提供する温かく安全な環境(家)を手放すことは、家畜化された猫にはもうできません。
厳しい砂漠での暮らしよりも、人間の保護下で家畜として暮らすほうが、より安全に子孫を残すことができるからです。
そこで猫たちはいつからか匂いではなく「ニャー」と鳴いて、望むものを得ることをおぼえました。
また、より強く可愛らしく鳴くことで、要求が通りやすくなることを学習していきます。
さらに猫にとって幸運だったことに、猫は人間にとって可愛らしくみえた点があげられます。
猫の顔における目の比率は、あらゆる哺乳の中で最大であり、人間の赤ん坊に似てみえたのです。
猫の人間に対する鳴き声を分析した結果、研究者たちは猫の鳴き声が犬や羊などの他の家畜に比べて「極めて操作的」であることを発見しました。
さらに継続的な観察により、人間との接点を持たない野良猫たちは「ニャー」を同種の仲間に対して使うことはきわめてまれであることが判明。
また野良猫たちの鳴き声は、飼い猫たちにくらべてより高周波の帯域(人間にとって聞こえにくい領域)にあることもわかりました。
一方で、人間に慣れた猫の鳴き声はより低く、人間にとって聞こえやすい周波数にありました。
人間が猫に話しかける時に、地声より1オクターブ高い「猫なで声」を発する光景がよく見られます。
実は猫も人間に対するときは本来の野生の声より低い音域で鳴いていたのです。
ただ問題は、この人間への適応が遺伝子によるものかが不明だった点です。
「ニャー」は遺伝なのか?

猫の鳴き声の変化は遺伝子によるものなのでしょうか?
これを確かめるために研究者たちは野良の子猫を調査しました。
もし人間に対する鳴き声が遺伝子によって獲得されるものである場合、野良の要素が強い両親の元で産まれた子猫ほど、人間に対する「ニャー」を使いこなす能力が欠如するはずです。
調査の結果、仮説は半分当たり、半分外れでした。
人間に対して「ニャー」と鳴く頻度やその質(指向性)は、他の能力と同じように環境と遺伝の要素が半々に含まれていることが判明したからです。
野良の要素が高い猫はある程度のハンデは負っているものの、環境次第では人間に対する「ニャー」を使いこなすことができました。
猫とコミュニケーションをとる方法

今回の研究により、猫の一般的な鳴き声である「ニャー」が人間だけに向けられたものであることがわかりました。
研究者たちは、猫の操作性の高い鳴き声に注意を払えば、まるで下僕のように猫の要求を忠実に実行可能であると述べています。
猫は人間の元で家畜化しましたが、逆に人間を支配する術も学んでいたのかもしれませんね。






















