フェルマーの生家にある像の前で記念撮影するアンドリュー・ワイルズ。
フェルマーの生家にある像の前で記念撮影するアンドリュー・ワイルズ。 / Credit:Wikimedia Commons
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「フェルマーの最終定理」解決の裏に潜む数学ドラマ【後編】 (3/5)

2020.12.05 19:00:56 Saturday

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すべてが1つにつながった!

楕円曲線とモジュラー形式は、数論と位相幾何学というまるでなんの関わりもない別分野の問題です。

確かに2つの問題は、E系列、M系列という似たような数列でその性質を表現します。しかし、同じ数学ではあっても、もはやそれは別の科目とみなせるくらい数学者にとっては全然無関係の学問だったのです。

そのため、谷山が最初にこれらは同じ概念を論じているのではないか? と言ったとき誰も信じられなかったのです。ただ、志村五郎を除いては。

「君の意見では、いくつかの楕円曲線とモジュラー形式が関連付けられると言うんだね?」ある高名な数学者に疑うように尋ねられた志村は、こう答えたそうです。「いいえ、そうではありません。いくつかではなく、すべての楕円曲線です」

そして志村は、必死の研究の果てに、谷山の驚きのアイデアを理論付けして「谷山-志村予想」として発表します。

「見事な予想でした。どの楕円曲線にも1つのモジュラーが付随しているというのですから」

ハーバード大学教授のバリー・メーザーは、「谷山-志村予想」をそのように語っています。

ある領域で解決できない問題が、別領域の問題に変換可能で、新しい領域のテクニックによって解決可能できるかもしれない、それは革命的なアイデアでした。世界中の数学者がこの予想の虜になったのです。

そして1984年、ついにこの問題がフェルマーの最終定理と結びつきます。ドイツの数学者ゲルハルト・フライが驚くべき発見を発表したのです。

それは「フェルマーの最終定理に登場する『xn + yn = zn』は楕円曲線に変換可能だ」というものでした。フライはもし仮にフェルマーの最終定理に解が存在するとしたら、という仮定から1つの楕円方程式を作り上げたのです。

その後、カリフォルニア大学バークレー校の教授ケン・リベットが極めて重要な証明を成功させます。それは「フライの楕円曲線は異常すぎてモジュラーにはならない」というものでした。

二人の数学者の仕事は次の事実を明らかにしました。「フェルマーの最終定理に解が存在した場合、それは楕円曲線に変換可能であり、そこには付随するモジュラーが存在しない」

これはつまり、すべての楕円曲線には付随したモジュラーが存在するという「谷山-志村予想」が事実ならば、フェルマーの最終定理には解が存在しないことを意味しています。

まったく異なる分野で議論されていた数学の問題が、このとき数世紀に渡る難問の解決とつながったのです。

次ページ360年の難問が解けた!

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