高齢者の手術後の死亡率と外科医の誕生日
Credit:canvaこの研究の筆頭著者はカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部で助教授を務める、津川友介博士です。
コロナの蔓延によって、医療従事者の苦労がメディアでも特集されるようになりました。
命に直接関わる仕事に従事しているとはいえ、医療従事者も同じ人間です。疲れもすれば、仕事を入れたくないタイミングも当然あるでしょう。
他にも外科医ならば、手術中の医療機器のトラブルや、着信音、手術とは関係ない会話など、手術中に外科医の集中を妨げる事象は数多く存在すると考えられます。
今回の研究チームは、そんな作業環境が外科医のパフォーマンスにどのように影響するかを長年疑問視してきたといいます。
しかし、これを明示するデータ収集は困難を極めます。そこで研究者が着目したのが外科医の誕生日だったのです。
医者が主人公のドラマで、家族や恋人と大切な約束のある日に緊急オペが入る、なんて場面は定番かもしれません。
そんなシーンを思い浮かべれば理解できることですが、誕生日のような重要なイベント日は外科医も注意散漫になり、手術を早く終えようと急ぐことでパフォーマンスが低下するかもしれません。
こうした仮説のもと、研究は外科医の誕生日と患者の30日死亡率の関係を検証したのです。
研究では、2011年から2014年の間に、17の外科手術のいずれかを受けた65歳以上(99歳以下)の高齢者、約98万人を対象に大規模な調査を行いました。
対象の手術を担当した外科医は約4万8千人で、同一の医者が担当している患者も多く含まれています。
この内、2064回の手術(全体の0.2%)が外科医の誕生日に実行されていました。
その結果、外科医の誕生日以外に手術を受けた患者の死亡率は5.6%であったのに対して、誕生日に手術を受けた患者の死亡率は6.9%だったのです。
つまり外科医の誕生日に手術を受けた患者とそうでない患者、2つのグループ間の死亡率の違いは23%もあったということを示しています。
これは看過できない優位な差といっていいでしょう。