磁場に反応する光る細胞
研究チームは、生細胞の観察でよく使用されるHela(ヒーラ)細胞を使って実験を行いました。
この細胞の中には、フラビン分子と呼ばれるものがあります。フラビン分子とは、クリプロクロムのサブユニット(タンパク質複合体)です。
フラビンは青色光を照射すると励起され、それ自体が蛍光の光を発します。
実験ではフラビンに青色光を照射しながら、4秒ごとに細胞に磁場を与えてみました。すると細胞の蛍光は約3.5%低下したのです。
研究チームは、この明るさの変化がラジカルペアメカニズムの証拠であるといいます。
フラビン分子が光によって励起されると、ラジカルペアを生成し、蛍光を発します。
磁場はこのラジカルペアに影響を与えて、電子スピンの向きをそろえて化学反応を遅くします。それが細胞の発光を暗くさせているのです。
論文の共同執筆者である東京大学のジョナサン・ウッドワース教授は「この細胞には、何の変更も加えていません。私たちは細胞レベルで化学活性に影響を与える純粋な量子力学的プロセスを観察したのです」とこの発見の意義を説明しています。
また、チームによるとこの実験で使用した磁場は、通常の冷蔵庫に貼り付く磁石とほぼ同じ強さのものだと話しています。
これは地球の自然磁場と比較すると500倍近く強力なものです。
そうなると、地球磁場レベルではあまり影響がないのでは? と感じますが、興味深いことにラジカルペアの電子スピン状態の切り替えは磁場が弱いほど容易に起こりやすくなるのです。
これは地磁気を感じ取る動物たちの中で、ラジカルペアメカニズムが働いていることを意味する、強力な証拠である可能性があります。
確実なことを知るためには、さらなる研究が必要だと言いますが、生物が微弱な地球磁場を感じ取る秘密にかなり近づけたと言えるでしょう。