全てはポンコツ免疫の誤った学習のせいだった
免疫は優れたシステムですが、時には役に立たなくなります。
新型コロナウイルスにおいても免疫の過剰反応が重症化の原因とされている事例が有名。
これは本来私たちを守るべき免疫が誤作動を起こしてしまっている状態と言えるでしょう。
アギレラ‐リザラガ氏はこの免疫の誤作動が「過敏性腸症候群」でも起きているのではないか? と仮説を立てました。
そしてその仮説を証明するために、食中毒を起こすバクテリアをマウスに感染させ、同時に卵に含まれるタンパク質(オボアルブミン)を食べさせました。
オボアルブミンはマウスにとっては非常にありふれたタンパク質であり、通常ならばなんの健康被害をもたらしません。
時間が経過すると、マウスは食中毒から回復し、糞便からもバクテリアが消えました。
次にアギレラ‐リザラガ氏は再度、卵のタンパク質(オボアルブミン)だけを与えます。
すると興味深いことに、マウスの体にはもうバクテリアが存在しないにもかかわらず、まるで食中毒をおこしたかのように、免疫系が活性化したのです。
この結果は、バクテリアに感染したマウスの免疫が、感染時に一緒に食べた無罪の卵のタンパク質(オボアルブミン)も、敵として認定してしまっていることを意味します。
免疫は一度感染した相手を記憶することで二度目の感染を防ぎますが、一度目の学習時に誤作動を起こすと、病原体だけでなく、そのとき一緒に食べていた食事までもまとめて「敵」として学習していました。
そしてこれら安全な食べ物(卵のタンパク質)が体内に入ると、免疫システムを作動させ、脂肪細胞からヒスタミンを分泌させ、防御システムの一種である、炎症を誘発させていたのです。
このとき分泌されるヒスタミンは腸のニューロンを非常に敏感にすることが知られており、常識の範囲内の量である腸内の食事の存在や消化にかかわる腸自体の運動をも「痛み」として知覚してしまうのです。
アギレラ‐リザラガ氏が遺伝的に脂肪細胞をもたないマウス(つまりヒスタミンも分泌されない)で同様の実験を行った結果、マウスは痛みの反応を示しませんでした。
同じ結果は、人間のボランティアを用いた実験でも得られたとのこと。
過敏性腸症候群に苦しむ患者から、よく腹痛を起こす食べ物(大豆や牛乳など患者によって違う)の成分を抽出し、腸壁に注射した結果、注射された場所だけにヒスタミンを原因とした「超小規模」な過敏性腸症候群が起こったことが確認されたのです。