工学的な側面から明らかになった喘鳴の原因
肺の気道は、細気管支と呼ばれる柔軟なチューブの分岐ネットワークです。これは肺の奥深くに入るほど短く細くなっていきます。
これを研究室で再現するため、チームはスターリング抵抗器と呼ばれるチューブを流れる流体を制御する機器を改造して利用しました。
そして研究メンバーの1人で、コンピュータビジョンの専門家であるジョアン・ラセンビー教授が、さまざまな張力でチューブに押し込まれる空気を撮影するための、マルチカメラ立体視技術をこの研究のために開発しました。
こうして、工学者たちによって調べられた結果、喘鳴の驚くほど激しいメカニズムが明らかになりました。
喘鳴が発生する条件は主に2つあります。
1つは複数の細気管支がほぼ崩壊するようなチューブへの強い圧力です。もう1つは、崩壊した気道に十分な力で空気が押し込まれることです。
これらの条件が満たされると、振動は非常に大きくなり、フラッター現象というものを起こします。
これは航空機の翼や橋が、風や気流のエネルギーを受けて振動を増幅させ構造が崩壊する原因となる、破壊的な振動現象です。
彼らはこの観察結果をもとにして、チューブの材料特性、形状、張力などに応じて振動がいつ発生するか予測する「チューブの法則」を作りました。
これにより、喘鳴の発症を予測できるようになり、肺疾患を迅速に診断する基礎的なモデルを構築することが可能になります。
「このモデルが完成されれば、X線やMRIのような高価で時間のかかる機材を使うことなく、マイクと聴診器だけで安価に素早く肺疾患の診断ができるようになります」
グレゴリー氏はそのように述べています。
今回の成果を利用した診断では、スマートフォンのマイクを用いて喘鳴音の周波数を取得し、どの細気管支が崩壊に近いのかを予測し、喘鳴の発生するポイントを見つけたり、気道の柔軟性を推測して治療に役立てるといいます。
まだ、この分野の発展には必要な課題が多いようですが、音をきっかけにした新しい医療の道が開かれるかもしれません。