人体の水サイクル量は、他の類人猿の「半分」
本調査では、動物園と熱帯雨林の保護区域にいる霊長類(チンパンジー、ゴリラ、オランウータン、ボノボ)72頭を対象に、1日の水分サイクル(摂取・排出)量を追跡調査。
測定には「二重標識水法(DLW)」を用いています。
DLWは、2種の安定同位体「重水素」と「酸素18」で標識された水を摂取した後、尿中の安定同位体比(水素/重水素、酸素16/酸素18)の変化を測定することで、身体が消費するエネルギー量を割り出す方法です。
これにより、食物から水分がどれだけ摂取され、汗、尿、消化管からどれだけ排出されたかが分かります。
これを309名の現代人にも行い、データを比較しました。
被験対象となった人は、原始的な狩猟採集民から農家、デスクワーク中心の会社員など多岐にわたります。
その結果、1日の水サイクル量は、人が平均2.9〜3.8リットルに対し、他の霊長類は2倍近くの平均5.5〜6.2リットルに達していました。
研究主任のヘルマン・ポンツァー氏は「非常に予想外の結果だ」と言います。
人の汗腺はチンパンジーの10倍もありますし、活動量も多いので、水サイクル量は多くなると考えるのが自然でしょう。
ところが、体のサイズや活動量、居住地の外気温などを考慮しても、人の方が1日に必要な水分量は少なかったのです。
「これは初期人類が水分を効率よく体内に保存する方法を発達させ、熱帯雨林から乾燥したサバンナへの移住を可能にしたことを示唆している」とポンツァー氏は指摘します。
では、人類が水をあまり必要としなくなったキッカケはどこにあるのでしょうか。