マウスの血液を安定的にヒト化することに成功
近年の生物工学の進歩により、動物の体を部分的にヒト化できるようになってきました。
免疫能力を失わせた動物に、ヒトの細胞を埋め込み、骨髄や肝臓といった体内の特定の部位を人間のものに変化させられるのです。
このヒト化技術の可能範囲には脳を含む中枢神経も含まれており、基礎研究ではマウスの脳を人間の脳細胞に置換することにも成功しています。
一方、実用面で最も期待されているのは、赤血球を作る造血細胞のヒト化です。
ブタや牛などの動物が人間の血液を大量に作れるようになれば、輸血液の不足を解消できます。
しかし既存のヒト化技術では、血液を安定的にヒト化させることはできませんでした。
動物の免疫能力を完全に奪っても、動物の肝臓(クッパ―細胞など)には異物を認識する能力が残っており、ヒト型赤血球を勝手に分解してしまうからです。
そこで今回、イェール大学の研究者たちは動物(マウス)の血を作る細胞だけでなく肝臓も同時にヒト化させる試みをしました。
すると、これまではすぐに壊されてしまっていたヒト型赤血球がマウスの体内に増え始め、3カ月後には全体の10%をヒトの赤血球に変えることに成功しました。
さらに成熟したヒト型赤血球が増えたことが刺激になって、造血細胞のヒト化率が自然に上昇し、80%以上に達したことも明らかになったのです。
加えて、生産されたヒトの赤血球はマウスの体の抹消部分でも機能することが明らかになりました。
これら結果は、マウスがヒト化した赤血球を安定的に維持し「自分の血」として利用していることを示します。