アルビノ個体が170kmを横断?
研究チームは2017年1月に、長野県飯田市で捕獲された白タヌキ(「リュウ」と命名)を遺伝子分析し、メラニン色素の合成をつかさどる「チロシナーゼ遺伝子」が変化していることを突き止めました。
メラニンは、一連の化学反応で合成され、その最初の反応をチロシナーゼという酵素が担っています。
通常のタヌキでは、アミノ酸を全部で529個もっており、その内の363、367、389、390番目がチロシナーゼの正常な機能を請け負っています。
しかし、リュウを調べてみると、347〜394番目までのアミノ酸がごっそり抜け落ちていたのです。
これにより、メラニンが合成されず、アルビノ体色となっていました。
タヌキの寿命は野性下で10年ほどであるため、中央アルプスに見られる白タヌキたちは、繁殖によって同じ遺伝子を代々受け継いでいると推測されます。
また、2014年には、長野のグループとは別に、三重県の松坂でも白タヌキ(「ポン」と命名)が発見されています。
ポンは、交通事故にあって保護された個体で、動物病院にて治療を受けました。
その後、同チームがポンの遺伝子を調べた結果、リュウとまったく同じくチロシナーゼ遺伝子に異常を起こしていたのです。
リュウの遺伝子異常は非常に複雑であり、これとピッタリ一致する変異が、別個体で偶然起こるとは考えられません。
飯田と松坂は、直線距離にして約170キロ離れていますが、アルビノの原因遺伝子がどこかで生じ、代々受け継がれながら、両地点にたどり着いたと思われます。
研究主任の古賀章彦(こが・あきひこ)教授は「アルビノ体色をもたらす遺伝子が、これほど広範囲に拡散している事例は初めて」と指摘します。
その一方で、アルビノ個体は一般に、野生下での生存に不利とされます。
理由は以下の3つです。
・メラニン欠如のため、紫外線を防ぐことができず癌になりやすい
・眼球の色素もないため、視力が低下する
・白い体色が目立つため、野性下で天敵のターゲットにされやすい
こうしたハンデがありながら数十年以上も、しかも広範囲にわたって白タヌキが繁殖しているのは非常に驚くべきことです。
古賀教授は「タヌキが残飯を食料にしたり、排水溝をねぐらにしたりと、都市環境に適応したことで、種間の生存競争がゆるんだ可能性がある」と推測します。
このまま繁殖が進めば、日本では日常的に白タヌキが見られるようになるかもしれません。
昨日、滋賀県彦根市に白いたぬきいましたよ