米陸軍の偽装研究施設
1960年代初頭、米陸軍はグリーンランドの北西部に、キャンプ・センチュリーという局地科学ステーションを建設しました。
200人近く居住可能な施設で、映画館や温泉も備え、局地での研究活動を支援するというのが、その計画の内容でした。
しかし、この科学研究所、真の姿は偽装された冷戦時代の軍事基地だったのです。
この基地が請け負っていた任務は、「プロジェクト・アイスワーム」と呼ばれる軍事作戦で、その内容はソビエト連邦に近いグリーンランドの氷床にトンネルを掘り、600発もの核ミサイルを隠すというものでした。
これはグリーンランドを管轄するデンマーク政府さえ気づいていない事実でした。
ところが、盤石と思われたグリーンランドの氷床は、実はかなり速く動いているとわかり、ミサイルを隠すトンネルは作ることができなかったのです。
そのため、キャンプ・センチュリーは結局1967年に閉鎖されます。
しかし、偽装とはいえ、ここに所属していた研究チームは、実際きちんと研究活動を行っていました。
彼らは、1966年にグリーンランドの厚さ1.4kmの氷床の下にある地面(堆積物)を、約20kmも筒状に掘削してボーリングコア(地質試料)を採取していたのです。
この貴重な地質試料は、その後、米国ニューハンプシャーの陸軍研究所の冷凍庫に送られて保管されました。
そして、その後1970年代にバッファロー大学の冷凍庫へと移送されます。
さらにその後、1990年代になってデンマークのコペンハーゲン大学の冷凍庫へと移されました。
もうこのときには、担当者たちはこのサンプルが何なのかよくわからないまま、ラベルを付けて保管していました。
最近、時を経てコペンハーゲン大学は、これらの膨大な氷床コアのコレクションを新しい冷凍庫に移す作業を開始しました。
そしてその作業にあたっていた研究者が、2017年にこの貴重なグリーンランドの地下深くのサンプルを再発見したのです。
彼は、この古い試料が宝の山だということに気づきます。そして、現代の時代測定技術を使えば、過去にはわからなかったさまざまなことが解析できるだろうと考え、バーモンド大学、コロンビア大学などの科学者を集めた研究チームを結成したのです。
実際、このコアには重要な情報が眠っていました。