地殻に閉じ込められた火星の水
岩石はあまり水とは関係ないように思えますが、風化のプロセスの一環として鉱石は水と結びつくことがあります。
こうした化学的風化は地球でも見られるもので、鉱物構造の一部に水分子が取り込まれています。
最近では、火星で地殻の調査を行う探査機キュリオシティが、火星の地下に粘土鉱石を発見しています。
ここ10年ほどの新しい調査と、さきほどのD/H比の問題を考慮した結果、研究チームは火星の水が宇宙空間へ吹き飛ばされたのではなく、ほとんどが地殻に取り込まれた可能性が高いと考えています。
しかし、地球でも当たり前に起こっている鉱石への水の取り込みが、なぜ火星だけ乾燥した世界へ変えてしまったのでしょうか?
その原因は、火星の構造プレートにあります。
地球の構造プレートは活発に活動していて、地殻は溶けてマントルに取り込まれています。そのため、鉱石に取り込まれた水分は火山活動によって再び大気中へと放出されるのです。
こうした循環があるため、地球では水が地殻に取り込まれても乾燥することがありません。
しかし、火星には活発な構造プレートがなく、火山や地殻の活動もほとんど停止しています。
そのため、1度地殻に取り込まれた水は、再び地上へ戻されることがないため、どんどん乾燥してしまったのです。
研究チームは、このプロセスによって、かつて火星にあった水の30~99%が鉱石に閉じ込められたと考えています。
ずいぶんと予想の範囲が広いようにも感じますが、これは初期の火星の大気組成や火山活動などの詳細な条件が不明なためです。
この新しいモデルは、火星が水を失い始めたのは、約41億~37億年前だと推定しています。そして火星はすでに30億年前には水を失って、かなり乾燥していた可能性が高いと予想しています。
これは地球で生命が誕生し始めたのが、約30億年前だったと考えると、かなり重要な問題に思えます。
初期の火星が地球同様水の惑星だったならば、火星でも生命が誕生していた可能性は高いでしょう。
火星はかなり早い段階から、長期に渡って乾燥した状態が続いたため、生命が繁栄することはありませんでしたが、やはりどこかに生命の痕跡は見つかるのかもしれません。