自然音は「ストレス軽減」や「痛みの緩和」に効果的
研究主任のレイチェル・バクストン氏(カナダ・カールトン大学)は2019年に「人工的な騒音がおよぼす弊害」についての研究を発表しました。
それによると、動物は食料や交配相手を見つけるのが難しくなり、人間はストレスの増加や高血圧になりやすくなることが分かっています。
と同時にバクストン氏は、正反対のシナリオとして「自然音がもたらす効果」を明らかにしようと考えました。
そこで研究チームは、自然音がもたらす測定可能な効果を調査した30件以上の先行研究の分析を開始。
各研究はおおむね、鳥のさえずりや川のせせらぎ、木々の葉ずれといった自然音を対象としています。
その結果、鳥のさえずりが、ストレスや不快感の緩和に最も効果的であることを発見。また、川のせせらぎは、リラックス効果や、静けさのような心の安定性を高めるのに寄与していました。
さらに、自然音は全体的として、血圧や心拍数、ストレスホルモンであるコルチゾールの低下、認知機能の改善、痛みの緩和などに役立っています。
例えば、スウェーデンの研究(2013)では、自然音のある環境にいる被験者は、音のない同じ環境にいる被験者と比べて、ストレス状態からの回復が早かったのです。
イランの研究(2015)では、人工呼吸器を装着したICU患者がヘッドホンで自然音を聴くと、通常より痛みを感じにくくなることが分かっています。
それから、いくつかの研究は、自然音を人工的な騒音(交通や工事の音)に混ぜた実験をしていましたが、その状況でも被験者の多くは、自然音に対しポジティブな反応を示していました。
つまり、わざわざ森や川に行かなくとも、自室で自然音を聴くだけでプラスの効果が得られるのです。
もちろん、自然の内に身をおいて、鳥の声や川の音を直接聴くことがベストではあります。
研究に参加したアメリカ合衆国国立公園局のカレン・トレビーニョ氏は「公園内の保護活動は、風景だけでなく、自然音を中心とした音景(soundscape)も対象にしなければならない」と指摘しています。
バクストン氏は「自然音は生態系に不可欠な資源の一つであり、あらゆる生物にとっての宝物です。
それらが私たちの健康や幸福に優れた効果をもつのは大変喜ばしいことでしょう」と述べています。
現代人の多くは、車やバイク、飛行機、工事現場の音に囲まれた生活を送っています。
こうした喧騒に疲れたときは、自然音を聴いてみるのがいいでしょう。