ブラックホールにスパゲッティにされた星の影
多くの星は、核融合の燃料を使い果たして徐々に冷えて白色矮星になるか、超新星爆発を起こしてその最後を迎えます。
これらはいわば天寿を全うした星の姿ですが、すべての星がそのような人生を送れるわけではありません。
銀河中心部に近い星は、その銀河の核となっている超大質量ブラックホールに吸い込まれて生涯を終えることがあるのです。
では、超大質量ブラックホールに吸い込まれてしまった星は、どうなるのでしょうか?
理論的な予想では、巨大な重力は、巨大な星に対して前方と後方で異なる力の掛かり方をするため、星は細長く引き伸ばされ、ブラックホールの周りをグルグル巻き取られるようにして落ちていくと考えられています。
天文学者はこれをスパゲッティ化現象と呼ぶことを好んでいますが、公式用語ではこれを潮汐破壊現象と呼びます。
ここ数十年の観測では、ブラックホールの周りでは短い放射のバーストが発見されていて、これらは理論に基づいてスパゲッティ化された星によるものだと理解されてきました。
ただ、こうした潮汐破壊現象に関連した放射は観測されていたものの、実際にスパゲッティのように引き伸ばされた星の姿というものが観測されたことはありません。
しかし、今回、オランダ宇宙研究所をはじめとする国際研究チームは、スパゲッティになった星の影だと思われるひものような物質の影をブラックホールの周囲に発見したのです。
研究チームは、今回のブラックホールは、極方向から観測していると理解しています。
これはいわばブラックホールを真上から見ている状態です。
このとき、ブラックホールの周囲を取り巻くような、非常に細いスペクトル吸収線を観測したのです。
スペクトルとは光の成分であり、それを吸収しているということはこれが何らかの物質の影であることを示しています。
研究チームによるとこの観測データは、長いひも状の物質がぐるぐるとブラックホールの周りを何周にも巻き付いていることを示唆していたといいます。
これはスペクトルデータのみであり、映像として見られるわけではありませんが、人類は初めてブラックホールに吸い込まれて最後を迎える星の影を観測したのかもしれません。