宇宙旅行する微生物がもたらす危機
宇宙ミッションには、「惑星保護方針」というものがあります。
これには2つの意味があり、1つは他天体を地球生命の汚染「フォワード・コンタミネーション(forward contamination)」から保護すること。
もう1つは、地球を宇宙から持ち帰った生命の汚染「バックワード・コンタミネーション(Backward Contamination)」から保護することです。
今回の発見は、このうちのフォワード・コンタミネーションに影響を与えるものです。
しかし、人類はこの問題に関して、宇宙を考える以前に、地球上でも大した実績がありません。
たとでばそれは、現在猛威を振るうCOVID-19原因ウイルスの急速な広がりをまったく制御できていない点からも明らかです。
フォワード・コンタミネーションは、科学的な観点からも望ましくありません。
それは科学者が、火星などの他惑星で生命を発見した際、それが本当にその惑星の生命なのかわからなくなるからです。
地球で厳重な洗浄を受け、宇宙を移動する際には多量の放射線を浴び、それでもしぶとく生き残った微生物は、もはやゲノムが大きく変化していてエイリアンのように見えるかもしれないからです。
最近の研究報告では、国際宇宙ステーションでさえ、新しい微生物が進化していることが確認されています。
NASAの技術者は、火星の土壌や空気中に、そのような種を持ち込まないよう努力していますが、それが完全でないことは今回の研究でも示されています。
今後火星で生命の痕跡が発見された場合、それが地球上で生まれたものでないかどうかは慎重に検証する必要があります。
そうでなければ、生命の普遍的特徴や、火星生命について、誤った研究を行ってしまう可能性があるからです。
また、これは宇宙飛行士の健康を害するような、身近な問題につながっていく可能性もあります。
そしてそれは、先程あげた「バックワード・コンタミネーション(宇宙生命による地球汚染)」についても、問題を起こす可能性が出てきます。
宇宙で特殊な進化を遂げた微生物を、再び地球に持ち帰った場合、人間を含む地球上の生命が逆に汚染されてしまうリスクがあるからです。
「バックワード・コンタミネーション」は宇宙に生命が存在しなかった場合でも、地球から持ち出された微生物によって発生する可能性があるのです。
これはSF映画では、お馴染みのネタですが、2028年にNASAとESA(欧州宇宙機関)が共同で行うミッションによって現実になる可能性もあります。
この「火星サンプルリターンミッション」では、2032年を目処に、最初の火星サンプルを地球へ持ち帰ることが計画されています。
過去の研究では、火星のサンプルに活発で危険な生物が含まれる可能性は極めて低いとされています。
NASAやESAは、火星でもし生命の痕跡を採取した場合、そのサンプルは多層構造の厳重なパッケージによって安全に持ち帰ると説明しています。
しかし、生きて宇宙船の表面で宇宙を旅した微生物はどうなるかわかりません。
火星に探査機が初めて着陸したのは1971年、ソ連のものでした。
その後、1976年には米国の「バイキング1号」が火星に着陸しています。
火星にはすでに、地球の微生物が存在している可能性があります。
ただ、これら地球由来の微生物を発見してしまった場合、火星の生命か地球の生命か見分ける方法は存在します。
現在、遺伝学の技術は進んでいて、その配列からDNAがいつごろ、なぜ変化したかまで解明することできます。
なんにせよ、微生物の驚くほどのしぶとさは、今後、人類の宇宙研究の悩ましい問題になっていく可能性があります。