細心の注意を払って除菌される宇宙船
宇宙ミッションにおいては、地球の生物を外へ持ち出してしまう危険性を抑えるために、国際的に合意された厳格な基準の洗浄組み立てプロトコルが存在します。
NASAではこのプロトコルを厳重に守り、ときには基準を超えるレベルで探査機を組み立てています。
NASAジェット推進研究所(JPL)の宇宙船組立施設(SAF)は、最近火星に降り立った探査機パーサヴィアランスの製造もおこなっています。
パーサヴィアランスの製造プロセスでは、宇宙船を玉ねぎのように、1層ずつ丹念に造り上げ、全てを洗浄してから組み立てていきます。
これによって、ミッションに投入する機器に付着する、細菌、ウイルス、真菌、胞子などを制限しているのです。
組立は、高性能なエアフィルターと厳格な生物学的管理手順を備えた部屋で行われています。
このクリーンルームは、理論上1平方メートルあたり数十個の胞子しか存在しないよう設計されています。
しかし、バイオマスを完全にゼロにすることはほぼ不可能です。
微生物は何十億年も前から地球に存在していて、私たちの周囲のどこにでもいます。
私たちの体自体もその生息域の1つであり、正直どんなに清潔なクリーンルームを設計しても、彼らは通過して入り込んでしまうのです。
これまでこうしたクリーンルームに入り込んだ微生物を検査するには、サンプルを取ってそこから含まれる細菌を培養して調べるしかありませんでした。
しかし、現在は新しい解析方法があり、メイソン氏もその方法によって今回の研究をおこなっています。
それが「ショットガン・シーケンシング法」と呼ばれるものです。
これは言葉通り、サンプルに散弾銃を打ち込み、何十億もの小さなDNAの断片にしてから、それぞれの断片の配列を決定するというものです。
各断片は、配列データベースにすでに存在する既知の生物種のゲノムに、再構成することができます。
この方法を使うことで、クリーンルームに入り込める微生物のDNA配列を、包括的に調べることができるようになったのです。
その結果、JPLのクリーンルームからは、宇宙ミッションで問題になる可能性のある微生物の証拠が見つかったとメイソン氏は述べています。
その微生物は、DNAを修復する遺伝子の数が多く、放射線に対する抵抗力が高いという特性を持っていました。
さらに、機器の表面にバイオフィルムを形成することで、乾燥に耐えることができ、低温環境でも繁殖できることがわかったのです。
この結果を見てメイソン氏は、厳格なクリーンルームの存在が裏目に出てしまっている可能性を考えたといいます。
つまり、厳重な洗浄プロセスが、逆に宇宙旅行に耐えられる生物を選別して宇宙船に乗せてしまうプロセスになっていたかもしれないのです。
そして、こうした事実は火星だけでなく、地球にも危機をもたらす恐れがあります。