VRで歪む時間感覚の謎
VR体験で時間圧縮を感じるという報告自体は以前からありました。
そのことを利用して、化学療法の患者が感じる治療時間を圧縮しようという研究もあります。
ただ、これらの研究は個人の感想に基づいていて、時間の間隔を定量評価したものはまだありませんでした。
「今回のはじめて、VRの時間圧縮がゲームをしているということだけでなく、何を見ているかというコンテンツの問題でもないことが明確になりました。
この時間圧縮効果に貢献している要因は、従来のモニターではなく、バーチャルリアリティであるという事実なのです」
ミューレン氏は結果をそのように語っています。
このような効果が見られる理由については、まだ明確ではありませんが、ミューレン氏は論文の中でVRでは身体意識が希薄になることが原因の1つである可能性を指摘しています。
私たちは心拍など体のリズムに頼って、時間経過を把握しているという説があります。
VRでは自分の体を見下ろしても、そこには何もありません。簡単なモデルを表示することはあっても、それが自分の体として感じる人はいないでしょう。
VRでは体の感覚が鮮明でなくなるため、これが時間感覚を狂わせる要因になっているのかもしれません。
こうしたVRの時間圧縮効果は、先にあげた不快な治療時間の短縮や、長距離フライトの時間圧縮などで有用なものになる可能性があります。
ただ、研究者はこの効果がもたらすデメリットについても注意が必要だと語ります。
たとえばVRカジノのような没入型コンテンツは、時間を忘れて没頭する可能性があり、中毒症状と合わせて注意が必要な事例となるでしょう。
こうした効果が明確に研究から示されるようになれば、ゲームデザイナーはVRで定期的に時刻を知らせる仕掛けや、時計を表示するなど時間感覚を調整する仕組みを求められるようになるかもしれません。
ただ、現在のVRゲームは時間を忘れてやりすぎるという問題より、3D酔いのために長時間遊べないという意見のほうが多いので、それほど心配する問題はないかもしれません。