脊椎動物の腐肉にはない「匂い成分」を発見
研究主任のトーマス・ラップ氏は「アリストロキア(ウマノスズクサ属)の多くは、哺乳類の腐肉や排泄物、腐った植物や菌類の匂いをまねることで、ハエを誘い、花粉を運んでもらいます。
しかし、ギリシャ固有のA. ミクロストマは、派手な花を咲かせる他種のアリストロキアとは違い、目立たない地味な茶系の花をつけ、葉や岩の間、あるいは地面に近い場所に水平に横たわっています。
この花の匂いは、他種の腐肉臭とは少し異なることが知られていました」と話します。
そこで研究チームは、ギリシャの3か所から計1457本のA. ミクロストマを採取し、匂いの化学成分を分析。
その結果、腐敗臭に関する16種の化合物が特定され、そのうちの1つに、死んだ虫の匂いに特有の「2,5-ジメチルピラジン」が見つかったのです。
ラップ氏によると、その匂いは「死んだカブトムシやカビの生えたナッツに近い」とのこと。
興味深いことに、脊椎動物の腐肉が2,5-ジメチルピラジンを放つことは知られていません。
つまり、A. ミクロストマは、無脊椎動物(昆虫)の腐敗臭を放つ初の植物であることが示唆されます。
また、採取したサンプルの内部には、メガセリア属の一種であるカンオケバエ(Coffin fly)が頻繁に見つかりました。
筒状のA. ミクロストマに入り込んだハエは、他から拾ってきた花粉を雌しべに受粉させ、出ていくときに雄しべを通って、再び花粉を身に付着させていたのです。
このことから、A. ミクロストマの匂いは、カンオケバエを受粉の媒介者として誘引する目的があると考えられます。
これまでの研究では、アリが送粉者の役割を担っているとされていましたが、真の運び屋はハエだったようです。
カンオケバエは、動物の腐肉や排泄物を見つけて産卵し、生まれた子どもの食料にします。
同チームのステファン・デタール氏は「A. ミクロストマが地面に近い所に生えていることも、ハエに繁殖場所を見つけたと勘違いさせる要因になっているかもしれない」と指摘します。
研究チームは今後、本種が昆虫の死臭を放つ目的を確認するため、カンオケバエがこの匂いにどれほど魅力を感じるかをテストする予定です。