腕の先から食べて、ヒトデを「ピン留め」していた
研究主任の海洋生態学者、ジェフ・クレメンツ氏は2018年に、スウェーデンの研究機関で、「フサトゲニチリンヒトデ(Crossaster papposus)」の生態調査をしていました。
ある日、氏はしばらくの間、1匹のヒトデを隔離するため、約80匹のウニが入った水槽に移しました。
当初は、ヒトデの方が捕食者であるため、ウニの心配をしていたそう。
しかし翌日、水槽をのぞいてみると、移したはずのヒトデが見当たらないのです。
よく探してみると、水槽の隅にかたまっているウニの山の下に、ヒトデの赤い腕が垣間見えました。
クレメンツ氏がそれを取ってみると、ヒトデの腕がウニによって食いちぎられていたのです。
氏はこのウニの行動が過去に記録されていないことに気づきました。
そこで同僚と協力し、ウニの群れが入った水槽に1匹のヒトデを入れ、捕食/被食の関係がどう逆転するかを調査。
その結果、ヒトデを入れてしばらくすると、1匹のウニがゆっくりと近づき、腕の先端に噛みつくと、後続するウニたちが次々とヒトデを覆っていったのです。
1時間後にヒトデを取り出してみると、上のようにヒトデの足が先端から食べられていました。
ヒトデは危険を察知すると腕を使って逃げますが、ウニたちが腕の先端から食べ始めるため、身動きがまったく取れなくなっていました。
チームはこの戦略を「ウニのピン止め(urchin pinning)」と名付けています。
しかし、ウニの行動を「積極的な捕食」と断定するのはまだできないとのこと。
ワシントン大学のミーガン・デティエ氏は「ウニには脳や中枢神経系が存在しないため、意図的に攻撃することはできません。
ましてや今回のように、群れで協調して捕食攻撃を行うとは生物学的に考えにくい」と述べます。
一方のクレメンツ氏は「ウニの群れは自己防衛のために、ヒトデに先制攻撃を仕掛けているのかもしれない」と指摘。
「彼らの同期的な攻撃は、ヒトデがいることで水中に放出される化学物質の匂いで誘発されている可能性がある」と推測しています。
もしこれが意図的な攻撃であれば、私たちはウニの賢さを見誤っているかもしれません。
研究チームは今後、ウニの肉食行動が野生下でも見られるかを調べる予定です。