綺麗な結晶なら氷は壊れない
実験では、タングステン製の針をマイナス50℃前後の超低温室に入れ、そこに水蒸気を放出して電界をかけました。
すると、水分子が針の先端に引き寄せられるように結晶化し、髪の毛よりも細い、幅約10マイクロメートル以下という極細繊維の氷を作ることができたのです。
次に、温度をマイナス70~150℃まで下げ、この低温の状況下で氷の繊維を曲げてみました。
すると、マイナス150℃の環境では、4.4マイクロメートルのマイクロファイバー氷が、半径20マイクロメートルという曲線状にまで曲げることができたのです。
さらに、この折り曲げた氷は、放すと元の形に戻ることができました。
この実験は、氷の最大弾性ひずみが10.9%であることを示しています。
これまでの試みよりも、はるかに氷の理論的限界に近い値です。
手袋をはめた指で氷のマイクロファイバーを曲げている様子。下にあるのは液体窒素。/Credit: Peizhen Xu, Bowen Cui, Xin Guo and Limin Tong, Zhejiang University
ではなぜ、同じ氷なのにこんなに柔軟性が異なる結果が出るのでしょうか?
研究チームは、この原因について氷の相というものに着目しています。
私たちから見ると、氷はみんな同じように見えますが、その結晶構造はかなり異なっています。
氷の結晶中の各分子の配置は「相」と呼ばれていて、これには非常に多くの種類があるとわかっています。
この相の移行は、圧力や温度などさまざまな条件が関係します。
私たちが通常見ている、普通の氷は「氷Ih相(こおりいちえいちそう)」と呼ばれています。
これは六角形の結晶形態で、自然に存在する地球ではもっとも一般的な氷の相です。
この「氷Ih相」にマイナス70℃以下の環境で圧力が加えられると、氷は菱面体の結晶形態である「氷II相」に相転移します。
そして、この相転移は可逆性(もとに戻る)です。
研究チームは、マイナス70℃以下でマイクロファイバーの氷を急激に折り曲げられたとき、この相転移が起きたのではないかと考えています。
この完璧に近い氷で作られたマイクロファイバーは、ためしに光を通してみると、最新の光ファイバーと同等に光の導波路として利用できることが示唆されたそうです。
今回の発見は、未だに多くの謎を持つ氷の物理学の研究に役立つと考えられ、さまざまな分野における氷関連の技術の可能性を開くものになるかもしれない、と研究者は語っています。
なんともクールな研究です。
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