盗んだ毛は「営巣」の材料となることが判明
シジュウカラやその近縁種の鳥は、寝ていたり、エサに夢中になっている哺乳類に降り立ち、慎重かつこっそりと毛をむしり取ります。
この行動は、ギリシャ語で「窃盗」と「毛」を意味する単語を組み合わせて、「クレプトトリシー(kleptotrichy)」と呼ばれています。
クレプトトリシーについての学術的な論文は数本しかありませんが、野鳥愛好家によって、実際の様子がいくつも撮影されてきました。
シジュウカラはたいてい、犬や猫、アライグマ、ときには人間の毛もむしり取ります。
こちらは、食事中のアライグマの毛をしつこく盗む様子です。
今回の研究は、偶然の目撃がきっかけで始まりました。
イリノイ大学資源環境科学部の鳥類学者で、論文共著者のジェフリー・ブラウン氏が、今春、イリノイ州中央部で行われた野鳥観察の際に、クレプトトリシーを発見したのです。
観察の結果、その鳥は盗んだ毛を巣の修繕や補強に使用していました。
鳥の巣に哺乳類の毛が見つかることは多々ありますが、それらは、死んだ哺乳類から集めたか、あるいは環境中に落ちた毛を拾ったものと考えられていました。
「ところが、私が見たシジュウカラは、睡眠中のアライグマからむしり取っていたのです」とブラウン氏は話します。
生きた哺乳類の毛を営巣に使っているというのは、初めての事実です。
しかし、なぜシジュウカラは、危険を冒してまで生きた哺乳類から毛を盗むのでしょうか。
この観察結果は、毛を盗むことに、リスクを埋め合わせて余りあるだけのメリットがあることを示唆します。
まず考えられるのは、巣の中の保温性を高めることです。
また、哺乳類の毛に匂いが付随していることから、ヘビなどの天敵を避ける効果もあると思われます。
これと似た行動は多数報告されており、たとえば、オオヒタキモドキという鳥は、巣にヘビの抜け殻を入れることで、捕食者を遠ざけています。
それから、巣の中に排泄物を置いて天敵の嗅覚を混乱させたり、寄生虫よけのためにハーブを入れる種もいます。
哺乳類の毛にも同様の効果があると推測されます。
その一方で、なぜ生きた哺乳類の毛でなければならないのかは分かりません。
今後は、哺乳類の毛が、生きた状態と死んだ状態でどう違うのかを調査する必要があります。
研究チームのヘンリー・ポロック氏は「今回のような予期せぬ発見は、動物があらゆるタイプの興味深い行動を示し、見過ごされがちであることを思い出させてくれます。
また、生態系の複雑な相互作用に光を当てるために、より注意深く自然を観察することが重要でしょう」と話しています。
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