「いいね!」が増えるとその後の投稿が道徳的な怒りに変化する
研究は、「いいね!」や「リツイート」を多く獲得すると、その後の投稿でユーザーはより多くの道徳的な怒りを投稿するようになることを発見しました。
さらにこの傾向は、政治的に穏健なユーザーがもっとも大きいということも明らかになりました。
いわゆる、右とか左とかで分類されるような政治的に極端な傾向にあるユーザーは、もともと道徳的な怒りについて投稿する頻度が高く、また社会的なフィードバックについてあまり気にしていない傾向がありました。
つまり、政治的に極端な人たちは別に「いいね!」の数を意識して、自身の投稿内容を変えようという努力はあまりしないのです。
対して、政治的に穏健で中立な立場のユーザーは、道徳的な怒りを表明することで増える「いいね!」などのフィードバックに非常に敏感で、これが徐々に投稿のスタイルを変化させる傾向にあるとわかったのです。
「このことは、政治的穏健派が、時間の経過とともに政治的に過激化するメカニズムを示唆しています」とクロケット准教授は語ります。
どうやら、ソーシャルメディアの報酬は、道徳的怒りを悪化させる正のフィードバックループを生み出しているようです。
こうした傾向は、小学校などの子供社会を思い返してみても、納得できる部分があるかもしれません。
道徳的に正しい発言をすれば褒められる、ということを学んだ子どもは、他人の不道徳な行動や言動について告発する傾向が強まります。
小学校の学級会では「先生ー、〇〇くんが……」なんて告発合戦がありましたが、こういう行為は道徳的な怒りの表明と見ることができるでしょう。
Twitterに見られる道徳的な問題に怒りを投稿する人たちは、まさにそんな学級会のようなメンタリティになっているのかもしれません。
道徳的な問題に怒る投稿をした場合、基本的には多くの人が同意します。
道徳的に正しいことを言っているのだから、それは当然といえるでしょう。
それはソーシャルメディアにおいて報酬となる「いいね!」や「シェア」を集めやすい投稿ということになります。
ユーザーはソーシャルメディアの利用で、次第にそのことを学んでいき、道徳的に怒る投稿を増やしていくのです。
そして、それは「いいね!」さえもらえれば発言内容は割となんでもいい、という政治的にスタンスを持っていない人ほど、影響を受けやすくなります。
今回の研究は、道徳的な怒りの増幅が良いとも悪いとも指摘はしていません。
道徳的な怒りは不正行為を明らかにし、問題を起こした人にはきちんと責任を負わせようという、社会にとってはプラスとなるものです。
ただ、Twitterなどを長時間利用した経験のある人ほど、こうした話題がいかに急速に悪化していくかも実感しているはずです。
ネットではたいていの議論が、ただのしょうもない言い争いに成り下がってしまいます。(ネットに限らないかもしれませんが)
そのため、今回見つかったソーシャルメディアが促進させる人々への傾向が、良いことなのか、悪いことなのかは、現状で指摘することは難しいでしょう。
けれど、今回の研究データはソーシャルメディアの影響について理解し、法整備を検討する立場にある人々には影響を及ぼします。
「道徳的な怒りの増幅は、ユーザーエンゲージメントを最適化するソーシャルメディアのビジネスモデルの明らかな結果です。
道徳的な怒りが社会的および政治的変化に決定的な役割を果たすことを考えると、テクノロジー企業はプラットフォームの設計を通じて、集団運動の成功または失敗に影響を与える能力を持っていることを認識しておく必要があります」
研究者のクロケット准教授はそのように述べています。