新規記憶回路を優勢にする薬は記憶増強剤になりえる
今回の研究により、習慣にかかわる脳領域(背外側 線条体)が記憶の定着に重要な役割を果たしていることが示されました。
新しい記憶が脳に入り込むと、この領域に存在する習慣回路と新規学習回路の活性度が比較され、脳にとって価値がある場合は新規学習回路が優勢になり、長期記憶の形成につながっていたのです。
問題は、脳が価値を決める基準が、社会的な基準とは異なる点にあります。
社会的に価値がある学習内容であっても、脳がその事実に同意しない状況…つまり学習内容に興味を感じずに、習慣の壁を乗り越える十分な活性が得られない場合、いくら学習時間を投じてもしても長期記憶として定着せずに忘れられていきます。
研究では人工的に新規学習回路を阻害したり、意図的に習慣回路を増強すると、ラットたちの頭から学習内容が抜け落ちていることが示されています。
反対に、新規学習回路を増強したり、習慣回路を遮断した場合、長期記憶形成を劇的に増加させられることもわかりました。
この結果から、研究者たちは人間に対しても、長期記憶形成に回路の均衡を傾けるような神経回路の刺激薬の開発が可能であると考えています。
もしそのような薬の開発が成功すれば、認知症の治療薬として使えるだけでなく、やる気が無くても学習したら忘れなくなるような、記憶増強剤ができるかもしれません。