ラットやマウスも学習中ではなく学習後に長期記憶が形成される
近年の脳科学の進歩により、人間を含む動物の様々な行いや感情に対応する神経回路が明らかになってきました。
快楽を担当する回路を刺激すれば、動物は気持ちよくなり、恐怖を担当する回路を破壊すれば、恐れを感じなくなります。
また集中力を担当する回路を強化すれば、記憶力が増大し、問題解決力が向上します。
しかし道具を用いる複雑な課題に対する新たな記憶が、どのようにして脳に定着していくかは詳しくわかっていません。
そこで今回、アメリカのマウントサイナイ医学大学の研究者たちは、ラットとマウスにレバーを引くとエサがもらえるという条件を学習させ、脳で何が起きているかを確かめることにしました。
すると意外なことに、学習が成功したマウスたちは「学習後」になってから、快楽や意思決定にかかわる線条体(せんじょうたい)の働きが、活発化していることが判明します。
このような線条体における活発な働きは、学習中にはみられないものでした。
研究者たちは、忙しい学習が終わって休憩段階になったことで脳内での記憶の整理と統合が進み、学習の成果が生じたと考えています。
似たような現象は人間でも発見されています。
ですが今回、研究者たちはさらに詳細な仕組みの解明を目指しました。
快楽や意思決定にかかわる線条体は複数の部位から構成されているのですが、研究者たちは各部位に長期記憶の形成を妨げる薬物(アニソマイシン)を注射。
線条体全体から長期記憶にかかわる領域の絞り込みを行いました。
すると、予期せぬ結果が現れます。
伝統的に行動学習にかかわるとされてきた領域を阻害しても記憶の定着に問題がなかった一方で「古い習慣」を担う部位(背外側 線条体)を阻害したところ、記憶の定着が大きく妨げられたからです。
いったいどうして、新しい記憶の定着に、習慣がかかわってくるのでしょうか?