亜鉛(Zn)の配置で切断効率も最大化
アリを例にとると、彼らが持つ2本の「下顎歯(mandibular teeth)」は、個々の亜鉛がしっかりと結合した材料ネットワークで構成されており、歯の重さの8%以上が亜鉛となっています。
この亜鉛が歯の切れ味に影響していることは分かっていましたが、実際に、原子レベルでどのように配置されているかは不明でした。
そこで本研究では、特殊な顕微鏡技術の「原子プローブ・トモグラフィー(APT)」を用いて、アリの下顎歯を観察しました。
APTは、高感度の3D空間イメージングと、化学組成をナノスケールで測定できる材料分析手法です。
研究チームは、採取した下顎歯のサンプルをATPで撮影することで、個々の原子がどのように配置されているかを特定しました。
アリの歯における亜鉛原子の分布をナノスケールで記録したのは初めてです。
また、これと同じ手法をサソリの鋏角(きょうかく、口元の刃)、爪、尾部の針、それからクモの牙などでも行いました。
その結果、どの道具においても必ず、顎や刃、針の先端部に亜鉛(Zn)が均一に配置されていることが判明したのです。
その周囲には、主に、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)が配置されていました。

さらにチームは、これらの小さな道具の硬度や弾性、切断効率、耐摩耗性、耐衝撃性をミニチュアスケールで測定しました。
すると、亜鉛の配置により切れ味が高まっているため、切断に使う力が少なくて済むことが示されています。
例えば、アリの下顎歯は、人の歯と同じ生体材料で作られた場合に比べて、60%以下の切断力で十分であると推定されました。
少ない力で切断できるので、筋肉を動かすために使うエネルギー量も少なくて済みます。

研究主任のロバート・スコフィールド氏は「私たちは、この小さな生き物の道具から多くを学ぶことが可能です。
例えば、アリの下顎歯の硬さは、亜鉛を加えることで、プラスチック程度からアルミほどまで硬化します。
もっと硬い工学材料もありますが、それらは往々にして脆いものです。
自然から学ぶことは、より鋭く、より傷つきにくい材料を開発するための大きなヒントとなるでしょう」と述べています。