線虫は犬より嗅覚が敏感
一般にはあまり知られていいませんが、多細胞生物の中で、全ゲノム解読が最初になされたのは人間ではなく線虫(C. elegans)でした。
線虫は実験動物として古くから研究対象になっており、体の構造の単純さもあって、マウスやショウジョウバエといったメジャーな実験動物を抑えて、地球上で最も解明が進んだ生物となっています。
また線虫の大きな特徴の1つとして、嗅覚に対する異常な敏感さが知られています。
線虫の細胞数は僅か1031個しか存在しないにもかかわらず、臭いを感じ取る嗅覚受容体は1200種類も存在します。
これは人間の400種類や、臭いに敏感とされている犬の800種類に比べても遥かに大きな値です。
そこで九州大学の研究者だった広津崇亮氏は2015年、線虫の嗅覚を、がん検出に使えると考え、がん患者の尿に対する線虫の反応を調べました。
すると興味深いことに、線虫は健康な人の尿を嫌がって遠ざかる一方で、がん患者の尿には積極的に近づくことが判明します。
また尿と線虫の距離をもとに、がんの検出率を測定したところ「97%」という圧倒的な数値に及ぶことも明らかにされました。
さらに、その後に行われた幅広いがんに対する臨床研究においても、86.3%という検出感度が示されました。
ただ「極めて早期の膵管腺癌(すい臓がん)」に対しては、検証が限られていました。
すい臓にできるがんは自覚症状がほとんどなく、気付いたときには進行が進んでしまっているケースが多くを占めていました。
そのため早期の膵管腺癌と判断された患者は、非常に希少な存在であり、検証の弱点となっていたのです。
そこで今回、大阪大学の研究者たちは日本全国の大規模な病院や研究所からなる巨大な臨床グループを組織し、早期の膵管腺癌の確保し、線虫を用いた尿検査を実施しました。
結果、線虫は非常に早期の膵管腺癌患者の尿にも反応し、近づいていくことが判明。
そして本研究は、早期のすい臓がんに対して線虫の性能を裏付けた、世界初の研究となりました。