細胞と直接語り合う技術が自殺リスクを暴く
血液検査で自殺しそうな人を特定しようとするアイディアは、実は10年以上前から存在していました。
ただ10年前の段階では、血液検査の精度や検出能力が十分ではなく、細胞内の多種多様な化合物を網羅的に分析することは技術的に困難でした。
そのため血液検査を介した自殺リスクの予測研究の多くは、特定の病状に限った分析だったり、再現性に問題がある(研究ごとの結果が一致しない)場合もありました。
しかし、ここ10年の急速な細胞生物学の進歩によって、細胞の活動によって生じるあらゆる分子を網羅的に検出する技術「メタボロミクス」が大きく進歩しました。
そしてメタボロミクスの進歩によって得られた膨大なデータを分析することで、細胞のある瞬間の生命活動全体を「把握」することができ、細胞が生産するホルモンをはじめとした全ての化合物をカタログ化することも可能になります。
(※研究者たちはこの進歩について「細胞たちの母国語である生化学の言葉を使って会話(分析)できるようになった」と表現しています。DNAや少数の化合物を測定する従来の分析法はいわば外国語で細胞とコミュニケーションをとっていたようなものです。それに対して、メタボロミクスは直接的に細胞の実体を知る手段となるのです)
そのためこれまで「怒り、悲しみ、喜び、苦しみ」のような精神的な現象の解明は脳科学や神経科学の分野に大きく依存していましたが、メタボロミクス技術の進歩により、特定の精神状態が「全身の細胞」にどのような変化をもたらすかも、解読できるようになったのです。
そこで今回、カリフォルニア大学の研究者たちは、最新のメタボロミクス技術を駆使することで「人間が自殺したいと考えている時に体の細胞がどんな化合物を増減させるか」を調べることにしました。