血液検査をするだけで「自殺したい人」を見つけられる
自殺したいと思っているとき、体の細胞たちはどのように化合物の生成パターンを変えるのか?
答えを得るため研究者たちは、うつ病と自殺念慮を持つ人々100人と健康な人々100人を集め、血液成分に対してメタボロミクスを実行しました。
体中を巡る血液には、体の各部位の細胞で作られた化合物が混ざり込んだ複雑なカクテルを構成しています。
すると、うつ病と自殺念慮を持つ人々で、大きく血中濃度が変化している化合物があると判明します。
また興味深いことに、化合物の変化のパターンは男女でも大きく異なることが判明します。

上の図では、うつ病と自殺念慮を持った人々で最も濃度変化が大きかった上位30種類の代謝化合物とその変化(赤文字の化合物が増加、黒文字の化合物が減少)を示しており、左側が男性で右側が女性となっています。
これらの結果から研究者たちは、うつ病や自殺念慮によって変化する血中成分は男女で大きく違うと結論しました。
男女で異なる化合物が自殺念慮に関わっているという結果は、自殺に至る生化学的なメカニズムが男女で異なる可能性を示しています。
これは男性の方が自殺率が高いことを考えると、興味深い事実と言えるでしょう。

次に研究者たちは、リストのなかからうつ病および自殺念慮との関連が強い5個の化合物の組み合わせを選び、血液検査に利用できるか検討してみました。
(※「濃度変化の大きさ=予測精度の高さ」ではないため、リストの上から順に5個が選ばれたわけではありません)
すると男女ともにわずか5個ずつ化合物の血中濃度変化を調べるだけで、血液を採取された被験者の健康状態、うつ病と自殺念慮を持つかどうかを90%以上の精度で判別できることが示されました。
この結果は、5つの血中化合物濃度を調べるだけで、うつ病と自殺念慮を持つ個人を特定できる可能性を示しています。
さきほど、血液成分は男女で異なっていたと述べたように、この血液検査の予測因子に選ばれた5つの化合物の内容は男女で異なるものが採用されています。しかし、中には男女で共通する化合物も含まれていました。
ここまでの成果では単に「血液検査で自殺しそうな人を特定する手段を開発した」だけとなります。
それだけでも十二分に優れた成果ですが、研究者たちは残された共通因子のほうにより強い興味を惹かれました。
共通因子を調べて男女両方の自殺にかかわる要因を解明することができれば、ヒトという種全体において、自殺を起こさせるメカニズムを解明できるかもしれないからです。
さっそく研究者たちは、共通因子がかかわる細胞内の仕組みを調べてみました。