宇宙進化の理論はどうやって検証するのか?
宇宙には、私たちが直接目で見ることができる物質バリオンと、目に見えない謎の物質ダークマターが存在しています。
ダークマターは重力のみが作用する見えない謎の物質で、宇宙の質量の約8割を占めていると考えられています。
ダークマターの話題を聞くたびに、見えもしないし何であるかもわからないものが何故そんなにもてはやされるんだ? と疑問に感じている人もいるかもしれません。
しかし、宇宙の進化を探る研究者にとっては、ダークマターの正確な正体はそこまで重要な問題ではありません。
宇宙がなぜ今のような姿になったかを考える場合、宇宙の進化に作用した重力的な影響を考慮すればいいのであって、その重力の正体がブラックボックスでも計算は十分に可能だからです。
宇宙にはまんべんなく星が広がっていると考えている人は多いかもしれません。
しかし、実際の宇宙には決まった領域にしか星は存在していません。
そして、それ以外の場所は「ボイド(超空洞)」と呼ばれるなにも存在しない空間になっているのです。
なぜ宇宙には均一に星が散らばらず、このようなムラのある状態になったのでしょう?
こうした広大なボイドと星の集まった領域は、広く観測するとまるで脳の神経細胞のような細かな網目の構造になっていることがわかっています。
これを「宇宙の大規模構造」と呼びます。
そしてこの構造を形成する鍵を握っているのがダークマターです。
ダークマターはその重力によって「ハロー」と呼ばれる巨大な塊の構造を作ります。
このハローの重力にバリオン(通常の物質)が集まって誕生するのが星なのです。
こうして大量の星を持った銀河や銀河団が誕生していきます。
つまり宇宙は、ダークマターが集まって形成した重力的な構造に沿って成長していき、現在の形になったと考えられるのです。
とはいえ、これは理論的な推測であって現実と完全に一致しているかどうかはまだわかりません。
実際、ハローの中で銀河などの天体がどうやって生まれ進化していき、現在の宇宙を形成したのか? その詳細なプロセスは謎に包まれています。
ではこのような壮大な理論が事実であるか確認するためにはどうすればよいのでしょうか?
そのためには、この宇宙の大規模構造を形成する理論に従って実際に模擬宇宙を作ってみて、それを観測した宇宙と比較すればいいのです。
理論通りのことが観測でも確認できれば、理論が正しかったと証明できるはずです。
ただ、これは言うほど簡単ではありません。
広大な宇宙を誕生から現在に及ぶまで、暗黒物質の重力相互作用を考慮して138億年かけて進化させるシミュレーションというのは、途方も無い計算量を要求するからです。
そのため、こうした試みは、これまで限定的な範囲のシミュレーションに留まっていて、とても観測と比較できるような空間的な大きさや精密さを達成したものは存在していなかったのです。